第249話 話し合いという名の誤魔化し
ダンジョンカメラという他の耳もあったため、この武器の力を操ろうとして、失敗してしまったと説明をした。
「条件武具の暴発か。まあ仕方ないとも言えるけど……」
その言い訳に紬も乗っかってくれる。
だが、同情する紬の横で理沙が頭を抱えていた。
どうやら理沙は俺が何をしようとしたのか理解したらしい。
石ころを使って俺がやろうとしたことは、聖剣から与えられる謎の力の掌握だ。
己の身体強化の魔力と混ぜて使えるか実験したのだが、見事に失敗してしまった。
しかし、謎の力を動かすこと自体は成功していたので、初挑戦の割には悪くはない結果だと思うが。
【S級の条件武具ってやばいんだな】
【勇者条件武具に馬鹿にされてね?】
【あんな飛ばされ方して生きてるのがすげえよ】
【その武器使いこなせないなら頂戴よ】
【乞食きちゃー】
【俺の持ってるカースドウエポンならいつでもあげるよ。酔っ払った勢いで手に取ったら、外せなくなっちゃった】
【ギルドに連絡して外してもらえ】
「下手なことしたら、いくらレオでも危ないんじゃない?」
「一応魔力を代償にして得た力だ。……そこまで怒るとは思えないが」
最後は理沙たちだけに聞こえるように、小声で伝える。
俺が聖剣に認められていることとはまた別で、普段戦闘に使っている風の刃やブーストといった技術は、人間社会でいうところの契約に近い。
お金を支払って品物をもらうように、魔力を支払って力を手にしている。
だから与えられた力であっても、それはこちらの取り分だ。
その聖剣だが正座しての説明中、剣のつかで俺の頬を執拗につついてきた。
まるで失敗したね、と煽られているようでかなり苛ついたのだが、怒って俺から離れるよりかはマシだと思い耐え抜いた。
「まあ使える力を増やすって話なら私も賛成なんだけどね。流石にそれでスタンピードが起きちゃったら洒落にならないっていうか……」
「でも地上にある訓練所で練習するってしても絶対無理だよね。建物が倒壊しちゃいそう。それに今回の件は事故だから仕方ないけど、危ないことをする時は防具をつけてね」
「壊れたらもったいないと思ってな。今回は外したんだ」
怒った聖剣から殺されることは頭になかった。
精々やられるとしたら、八つ当たりで防具を破壊されるくらいだろうと。
そんな俺の言葉を聞いた二人は、なんともいえない表情を浮かべる。
【勇者知ってっか。防具は自分の体を守るためにあるんだぞ】
【おしゃれしてんじゃないんだから】
【顔から地面に突き刺さって無傷の人に防具必要?】
【子供が真似するだろ。絶対必要】
「まあ、こっちとしても練習するなとは言えないんだけど、下層に潜ってからの方が安全かもね」
「下層はもっと広いのか?」
「広いのもそうなんだけど、壁や地面が中層の比べて頑丈なのよ。下層で戦う探索者が、中層にきて同じ感覚で魔石爆弾を使うと、スタンピード起こすくらいには……」
「ここみたいな平原ならまだいいけど、洞穴や廃墟みたいな場所じゃあ練習することも難しそうだよね。廃墟の建物も破壊非推奨のオブジェクトだから」
紬の説明によると、廃墟の建物のような障害物を少しでも壊してしまうと、その階層のモンスターのリポップ速度が上がってしまうらしい。
そして最悪スタンピードにも繋がるのだと。
これからは階層も上げる予定で、必然的にそういった階層を通ることになる。
「……下層か。まあ、二人ならすんなりと攻略できるだろ。今のところそれらしい相手は出てきていないしな」
「私にとって鬼門はテンドルスフィアだけど、多分なんとかなるでしょ」
「僕もあれとハンマーじゃ相性悪いだろうね。出来るなら一人で倒せるくらいまで戦えたらいいだろうけどさ……」
ハンマーは手数を犠牲にして威力を高める武器だ。
今の紬にあの触手の攻撃を捌ききるのは、難しいだろうな。
「戦いようによっちゃ、紬も一人で倒せると思うけどな。それと理沙なら普通に倒せるだろ?」
「あいつって以外と魔法抵抗高いのよ、前の私だと倒しきれないくらいにはね。それに私のような後衛を相手する時に、戦い方が変わるのも厄介なの。魔力を奪われながら戦わなくちゃいけないから。……まあ絶対今回は仕留めてやるけど」
理沙の言葉には恨みのようなものがこもっていた。
紬の話では吸精種が原因で、理沙は階層更新を断念した。
それがあいつということなのだろう。
「そうだね。僕ももっと頑張らないと。レオさん、もしもの時は助けてくれる? テンドルスフィアにだけはやられたくないんだ」
「わかった」
嫌悪感溢れる紬の言葉に了承する。
【苦戦希望】
【勇者、助けてばっかりじゃ相手のためになんないんだ。時には心を鬼にして見守る必要がある】
【己の身一つで強敵に打ち勝つ。それはとても美しいことだと思わないかい?】
【僕は二人が倒し切れると信じてる。勇者も仲間を信じてあげて】
【必死になって説得すんな変態ども】
そうして次の階層からは二人の力だけで進んでいった。




