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異世界勇者は常識知らず〜魔王を討伐した勇者が、地球で魔王とダンジョン配信始めました  作者: 冬狐あかつき


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第246話 休息


 風呂を終わらせると、安全な魔法の絨毯をベッド代わりに使い、攻撃の届かない上空で休む。


 しばしの休息。

 一番早く目覚めたのは俺だった。

 体を起こし、周囲を見渡せば携帯型のゲームに囲まれながら寝息を立てている理沙と、何故か落下防止用に出していた他の絨毯に寝床を拡張されている紬の姿が目に映る。


 紬が言っていた持病が発症したのかと心配したが、彼女を眺めているとすぐに原因がわかった。

 ……どうやら紬の寝相はかなり悪いらしい。

 ぴくりとも動かない理沙とは反対に、紬は何かを抱きしめるような仕草をしながら、ごろごろと寝返りをうっている。


「……これはデート、なんだよ」


 紬はにへらと笑い、寝言を呟いている。

 何の夢を見ているのだろうか。

 あんまりじろじろ見ていると、起きた時に怒られそうなので、一足先に地上に降りた。


「ありがとう。結構倒せたんだな」


 グッと背伸びをする俺の元へ、土人形が駆け寄ってくる。

 こいつらには動ける範囲でのモンスターの討伐をお願いしていたのだが、剣を持つ土人形に背負わせていた籠には、数十個の魔石が入っていた。


「特に傷もなしか。スピードがある相手にはあれだが、それ以外にはかなりやれそうだな」


 使い勝手もよく、かなり自由に意思疎通がとれる。

 鏡花が言うには、市場に出ている同系統の魔道具と比べてもかなりの上物らしい。


 まあそもそも市場に出ないのは、高性能の魔道具はドロップしたパーティー内で使われることがほとんどだからかもしれないのだが。


「……しかし十億か。こいつを売ると何食分になるのやら」


 俺の葛藤を察知して土人形は怯えたように抱き合っている。


「大丈夫だ。今のところ売る予定はない」


 その言葉でハイタッチしあう土人形。

 日が経つにつれて人間臭くなっている気もするが、変に考えると投擲の材料にし辛いのでここで止めておく。


「なに遊んでいるの?」


「遊んでない。魔石の回収をしているだけだ。早起きだな理沙。昨日は遅くまでゲームしてたのに」


「ゲームは私にとって栄養補給も同じだから。それに回復効果のある方の魔法の絨毯を譲ってくれたしね」


 元々理沙はあまり眠る(たち)ではないらしく、今回の探索にあたっていくつものゲームを持ち込んでいた。

 ゲーム機五つに、大量のカセット。

 それらを大きな鞄に収納してやってきた時は紬が頭を抱えていたが、定期的にゲームを摂取しないと目に見えて弱っていくらしいので渋々許可がおりた。

 理沙は魔法の絨毯に置いてあったゲームを俺に差し出す。


「これまた預かっといてくれる? 紬はもう少しかかるかな。流石に疲れてそうだったし」


「今日は交代で理沙がメインで戦うんだろ?」


「予定ではそのつもりだったけど、あなたも何か試しているんでしょ? 私は確認作業だからそっちを優先してもいいわよ」


「俺は別に相手がいなければいけないってものじゃないから、好きに戦ってくれて構わない。俺としては戦いよりも、二人から離れた位置で行動したいんだが……」


「離れた位置? 別階層じゃなくて?」


 理沙が小首を傾けて聞き返す。


「一応気をつけてはみるが、もしものことがあるからな。被害は最小限に抑えたい」


「被害ってあなた何をするつもり……」


「――寝坊しちゃった! レオさん! りっちゃんどこ⁉︎ もしかして置いてかれた?」


 上空から、紬のどこか焦ったような声が聞こえてくる。

 次にバタバタと物音が聞こえ、不細工な熊のぬいぐるみが落ちてきた。


「わわっ! 待って!」


 見上げればぬいぐるみを追うように手が伸びてきて……そのまま体勢を崩し、紬の体は宙を舞った。

 横からため息が聞こえてくる。


「あー……レオ、お願いできる?」


 紬はパニックになっているのか、手を翼のように広げてもがいている。

 一向に魔法を展開する様子がないのを見て、俺は紬の元へと跳んだ。


「落ちちゃう! 誰か――」


「……紬、咄嗟に身体強化を使えとは言わないが、使い慣れた自分の魔法くらいは反応できた方がいいんじゃないか?」


 紬を抱えたまま地面に着地。


「ふぇ?」


「わざわざ寝てる紬を置いていくわけないだろ。俺はともかく、理沙とは長い付き合いなんだろう?」


 突発的に組んだ新規パーティーなら慌てるのもわかるが、紬と理沙は友達同士。

 そんなことするはずないと説明するが、紬はじっと俺の顔を見たかと思うと、突然顔を赤くしてバタバタと暴れ出す。


「おっ……お姫様抱っこ!」


 どうやら助け方が不快だったらしい。

 いくら人との関わりが少ないとはいえ、女の胸に触れるのは駄目なのは俺でもわかる。

 出来うる限り気を遣ったつもりなのだが、まだまだ改善する必要があるようだ。


「紬、助けてもらったんだからお礼を言いなさいな」


「そうだね。ごめんなさい。テンパっちゃって……。レオさん、助けてくれてありがとう」


「いや、寝る前に落下する心配はないと説明してたからな。焦る気持ちもわからんでもない」


 落下した時に魔法の絨毯に助けに入るよう頼んでいた。

 だが結果は救助が遅れ、いらぬ恐怖を与えてしまった。

 俺が助けずとも落ちる前に救助できたはずなので、俺が助けに入ったのは判断ミスでもある。

 八つ当たり気味に近くを旋回する魔法の絨毯を睨むと、奴らは紬の後ろに隠れるようにして俺の目から逃れる。


「この子たちは怒らないでレオさん。ドジっちゃったのは僕なんだから」


「それは……まあいいが。とりあえず朝ごはんにしようか」


「ご飯もいいけど……紬、化粧しなくて大丈夫?」


「え? 化粧? 僕、今スッピン……」


 紬は自分の顔に手を当てる。

 そして今度は紬の顔を隠すように魔法の絨毯が移動して……。


「先食べといて! 化粧してから食べるから!」


 紬は手で顔を隠しながら魔法の絨毯の一つに飛び乗ると、上空に避難する。

 そういえばお風呂の後、俺に顔を見せないようにしていたなと思い出した。


「別に厚化粧してるわけじゃないだろ?」


「乙女心よ。理屈じゃないの」

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