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異世界勇者は常識知らず〜魔王を討伐した勇者が、地球で魔王とダンジョン配信始めました  作者: 冬狐あかつき


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243話 戦う聖女


 それから四日は準備に費やした。

 一日で買い物を終えて、残りはモンスターの肉を使った料理を大量に用意する。

 ギルドの調理部屋は、緊急時に炊き出しを作るためにも使われるようで、調理器具の量も並外れていた。

 飲食店でも使わないようなレベルの大きさの鍋や、オーブンを紬が自由自在に扱って料理する。


 理沙は自身の魔法でモンスターの肉を焼くのに貢献し、俺も野菜を切ったり、重たい荷物を運んだりして手伝いはした。

 だが悲しいかな俺が手助けした中で一番喜ばれたのは、聖剣の力を使って部屋にこもった熱気を換気したことだった。


 本来は三日を準備に費やして四日目に探索を再開する予定であった。

 だが理沙の方から少し待っていてほしいとお願いされて、延期されることになったのだ。


 そうして待つこと一週間。

 ようやく探索再開の日がやってきた。




 休み明けということで最初は低階層で体を慣らすことに。

 階層は二十七階、二足歩行で行動する犬――コボルトが出現するフィールドだ。

 コボルトの持っている武器は鈍器が多く、剣を持つ者も、総じて錆びついているか壊れかけだ。

 攻撃を喰らっても即死することはないだろう。

 この休み中に購入した、動物型のモンスターを引き寄せる臭い袋を取り出して、地面に叩きつける。

 すると周辺にいたコボルトたちが一斉に駆け寄ってきた。


「さあ紬、準備はできたか?」

 

「心の準備がまだ……いや、やる。僕やるよ」


 紬は覚悟を決めたように宣言すると前に出る。

 後ろで理沙はいつでも援護できるように、魔力を練り上げながら待機していた。


【俺たちにも何をやるのか説明してもろて】

【何でこんな低い階層にいるのです? ビビっているんですか?】

【海外勢の挑発はいりました】

【何で海外の探索者はデスパレード攻略しないの? ビビっているんですか?】

【ニートの煽りはいりました】

【事実陳列罪です。やめてください】


「コメ欄で喧嘩しないで。紬、あんまり頑張りすぎないようにしなさいね。危なかったらいつでも助けてあげるから」


 紬は光の翼を生み出して空へと飛び上がる。

 紫紺のローブがふわりと揺れ、迫り来るモンスターをじっと待った。


【ちょっと待って。ヒーラーに戦わせるつもり?】

【いかれてんだろ】

【見損なったぞ勇者】

【炎姫も何してるんだよ。勇者の思考に汚染されたのか?】


 コメントの数が爆発的に増加する。

 以前までの紬は戦う術を持たないヒーラーだった。

 回避に徹して、仲間を援護する。

 頼りになる仲間がいればそれで十分な役割だといえるが……このままでいることを彼女は望まなかった。


 

 あえて高度を落とした紬に向かって、コボルトが跳躍して攻撃を仕掛ける。

 持っているのは石でできた棍棒。

 紬は空中で軽やかに避けると――


「僕も、これからは戦うんだよ!」


 手に持つのは、この前の探索でスケルトンからドロップした綺麗な装飾が施されたハンマー。

 紬は大振りに振り払うと、攻撃を受けたコボルトの体が砕け散った。


【惚れ直しました。結婚してください】

【君ならやれると信じていたよ。僕の隣は君のために空けておくからね】

【お前の隣はいつも空いてるだろ】

【何で勇者がいるのに戦闘に参加するんだろ?】

【チーム離脱するんじゃね?】


 紬はアイテムボックスを駆使して立ち回る。

 移動中はハンマーを収納し、必要になった時だけ取り出して攻撃する。

 ハンマーを持ったまま空中を移動することは可能だが、消費する魔力も格段に増加してしまう。


 以前の回避型のスタイルも捨てずに有効活用する。

 人のことは言えないが、自由自在に空中を移動できる戦士なんて、厄介なことこの上ないだろう。


 小ぶりの雑魚は全滅。

 残すは上位種と呼ばれる存在を残すところとなった。

 今回出現したのは全身に重そうな鎧を装備しているタイプだ。


「よく見るタイプね。防御特化の上位種。魔法で攻撃すれば瞬殺だけど、紬! やれる?」


 紬は真剣な面持ちで親指を立てる。

 そして上位種の真上まで移動すると、ハンマーを取り出して急降下を開始した。

 落下中、紬の身の丈ほどの大きさのハンマーに変化が起きる。

 持ち手はそのままに、先端の(つち)の部分が巨大化していき。


 轟音。紬の一撃は、コボルトを完膚なきまでに破壊して、地面に大きな亀裂を残した。


【ヒーラーが中層のモンスター撲殺するってマ?】

【空中移動のアドバンテージ強すぎだろ】

【結構強そうなダンジョン武具ね】

【強そうか? 身体強化必須じゃね?】

 

「地面に当たる直前に収納しようと思ったんだけど、間に合わなかったよ」


「十分な戦果だと思うわよ。武器との相性も良さそうだしね」


 ぱちぱちと拍手しながら理沙が賛辞を送る。

 紬は少し照れたように笑うと、俺に向き直った。


「レオさん、評価お願い」


「身体強化の魔力配分がバラバラだ。地をかける戦士ならば必要であろうが、空中にいる紬が攻撃する際に、足の爪先まで強化する意味は薄い」


「そこまで意識してなかったよ。そうか……魔力配分か」


【採点厳しいっすよ先生】

【マウント? マウントですか?】

【前衛としても喉から手が出るほどほしいレベル】


 俺の指摘を受けた紬は、素直に受け止めて考え込む。

 慢心している様子もなく、このままいけば一角の探索者になるだろうなと仲間ながら思った。


 魔力を練り上げ、身体強化の練習を始めた紬の背に声をかける。


「それでも、凄い成長速度だ。紬は身体強化の才能がある。誇っていいと思うぞ」


「本当! 嬉しい! もっと頑張るね」


 笑みをこぼす紬は、次なる敵を探すべく次なる敵を探し始める。

 そうして探索開始の初日は紬の戦闘訓練で一日を終えた。


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