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異世界勇者は常識知らず〜魔王を討伐した勇者が、地球で魔王とダンジョン配信始めました  作者: 冬狐あかつき


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240話 余計なお世話


 ショップに行った時の一連の流れを説明すると、鏡花は大口を開けて驚いていた。

 ダンジョンを管理してるであろう存在が、モンスターに襲撃される。

 そんなことを聞かされた鏡花も最初は半信半疑だったが、それでも最後には俺の言葉を信じてくれた。


 何をそんなに気になるのだろうと不思議に思ったが、俺が最後にショップを利用してから利用できなくなっているらしい。

 それで俺が何かしたのではないかと疑いをかけられていたようだ。

 

 鏡花は信じてくれるかどうかわからないのが問題だとぼやいていたが、とりあえず俺はお咎めなしでいってくれるらしい。


 元々ショップは一定間隔でランダム出現。

 それを理由にしばらくは誤魔化していくとのことだ。



 俺の家に泊まろうとする鏡花を追い出して二日経過したところ、単独の探索を再開して四十七階層まで更新した。

 攻略のネックになっているのはダンジョンカメラの性能であり、配信の義務が足を引っ張っている。

 魔法の絨毯に乗せて保護しているとはいっても、不意打ちの一発でももらえばそこで探索者は終了だ。

 だから普段より慎重に行動せねばならず、四十六階層から嫌がらせのように広範囲攻撃を仕掛けてくるモンスターが出現したことにより、一階層における探索時間は伸びる一方だった。


 ……まあミミックを探して隅々まで探索したことも理由ではあるのだが。

 ミミックから稀にドロップする宝石は、変装用の魔道具であるミミック人形の修復に必要になる。

 先日の襲撃でダメージを負ったミミック人形を修復するのに使用して残り五個。

 あまり余裕のある数ではない。

 ネットで買うことも考えたが、新種のドロップアイテムは高騰する傾向にあるらしく、一個二億円もするので、できるだけ自分の手で回収するようにしたい。



 そうして探索のない時間は、紬のことについて考えていた。



 ――――――――――――――



 紬が倒れてから四日、全快した紬と理沙が俺の部屋に集まっていた。


「無事回復したよ。ご心配おかけしました」


 ちろりと舌を出して紬が開口一番謝罪する。


「それは俺のせいだ。迷惑をかけてすまなかった」


「パーティーメンバーなんだから当然だよ。僕もやれば出来るでしょ? まあ結果はちょっとカッコ悪かったかもしれないけどね」


「それで、私たちに話ってなんなの?」


 理沙が無表情でソファーに座る俺と紬の前に飲み物を置きながら聞く。

 理沙の言葉を受けて俺は、ここ四日間ずっと悩んでいたことを話すことにした。


「……ダンジョンショップに行った話は電話でしただろ?」


「ショップの店員がモンスターに襲われたって話よね?」


「そうだ。それでまだ二人には話をしていないことがあるんだが……」


 ここで俺は薬屋の婆さんに言われたことを正直に話した。

 俺を治療して倒れたのは、紬側の体質に原因があるかもしれないことと、それは今後の探索でも続く可能性が高いことを。


 今は俺と一緒にパーティーを組んでいるが、それがずっと続くとは思っていない。

 俺の目的のこともあるし、紬もそんなに探索に命を賭けているようではないからだ。

 

 これが本当に体質的な要因なら……改善する余地はあまりない。

 そして今までの話を聞く限り、紬は他のパーティーで治療する時は上手くやれていた。

 勇者としての特性も関係あるとして、パーティーのヒーラーである紬は俺を治療する度に倒れてしまう。

 

 もしこの話が周囲に広まったら……その悪評は次のパーティーを決める時に枷になるだろう。

 だったら早いところで俺に見切りをつけて……。


「嫌だなあもう。この前はちょっと頑張っちゃっただけだから。今後慣れていくかもしれない……いや慣れるよきっと!」


「こればっかりは根性論でなんとかなる問題ではないんだ。無理をして俺と一緒にいても紬のためにはならない。今後別のパーティーに移動することも見据えて……」


「嫌だ」


 焦ったようにアピールする紬を説得しようとするも、返ってきたのは明確な拒絶だった。

 紬がこのパーティーにいることを望んでくれていることは正直嬉しい。

 だがもしそれで紬が不幸になったら、俺は一生後悔することになるだろう。

 これ以上自分のせいで迷惑をかけるわけにはいかない。


「紬……よく聞いてくれ」


「嫌だ、嫌だ、嫌だ。僕はこのパーティーがいいの! レオさんが足手纏いだからって言うならそこで諦める。でもこんな理由で離れたくないよ!」


 紬の頬を伝う一筋の雫。

 二人の会話を黙って聞いていた理沙がここで口を開いた。


「紬がレオを治療して倒れたのは事実。でも他に治療出来る人がいない可能性もあるのよ?」


「俺を治療出来る人間が貴重なのは、自分が一番よくわかっている。でもそういうことじゃないんだ。俺を治療して紬に迷惑がかかるのならば、俺は治療を望まない。だから……」


 パンっという軽い音が室内に響く。

 紬に頬を叩かれたと気づくのに、少し時間がかかった。


「レオさんの馬鹿! おたんこなす!」


 紬は真っ赤な目で叫ぶと、平手打ちした方の手をひらひらと振りながら走り去る。

 俺は引き止めることもせず、部屋の扉が勢いよく閉じるのをただ見ていた。


「……紬を怒らせてしまったみたいだ。理沙、すまないが紬を追いかけてやってくれないか?」


「嫌よ。あなたが行きなさい」


「俺が言っても同じことになるだろう。頭が冷えたら紬もわかってくれるかも……」


「それ以上言うと今度は私があなたを引っ叩くわよ?」


 理沙が俺の言葉を切り捨てる。

 その目には怒りの炎が揺れていた。

 理沙は溜め込んだ感情を放出するように言葉を続ける。


「あのね、勘違いしないで。私と紬は誰に強制されるでもない、自分の意思でパーティーに入っているのよ。それが迷惑になるから、なんて言われて納得できるはずないでしょ」


 紬を諦めさせるなら言葉を変えなさいと理沙は言う。

 それは俺の心の弱さを的確に指摘していた。


 紬のためを思うのであれば、このパーティーにいたくなくなるような、もっと冷たい言い方をした方が良かったのかもしれない。

 だが俺にはどうして言えなかった。

 そうしたら彼女との繋がりが完全に途切れてしまう気がしたから……。

 ここで俺はようやく自分の弱さに向き合った。


「……多分俺は怖かったんだ。中途半端な言葉で紬を傷つけて。この期に及んで嫌われたくないと思ってしまった」


「そう。それなら一歩前進ってことね」


 胸の内を吐き出すと予想外の返答が返ってくる。

 ポカンと口を開ける俺を見て、理沙はくすりと笑った。


「貴方がそう思えたのであれば、このパーティーは貴方の帰るべき場所になるかもしれない。そうなったらこっちのものよ」


「帰る場所か。……でも俺は――」


「勿論、貴方の目的もわかっているわ。それでも願うだけは自由でしょ?」


 溢れ出そうになる思いを拳を強く握って抑えつける。


「……なあ、紬は許してくれると思うか?」

 

「相手は女心をわからない朴念仁なんだから、誠心誠意謝ったら許してくれるわよ」


 酷い言われようだが、今はその言葉が嬉しかった。


「すまん。ちょっと行ってくる」


 背を向けた俺に向かって理沙が声をかける。


「これはただの独り言だけど、私は例え貴方がどこの誰に狙われていたとしても、パーティーを抜けるつもりはないわ。今日みたいに迷惑がかかる、なんて理由でチームを抜けるなんて思わないでね」


「もしかして鏡花から聞いたのか?」


 襲撃犯の目的を知っていたかのような言動に思わず振り返る。


「独り言に返答しないで。それよりも貴方は早く紬に謝罪してきなさい」


「それは……わかった。行ってくる」


 扉を出て俺は、紬を探すべく駆け出した。



 



 一人になった部屋で理沙がソファーに背を預ける。


「仲間でもあり、ライバルでもある。勝負はフェアじゃなくっちゃね。まあ絶対負けるつもりはないけど」


 誰にも言うつもりのない小さな宣言が部屋に響いた。


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