24話 聖剣=呪いの武器?
3階層はハウンドドッグと呼ばれる犬の魔物の群れ。4階層はクルコッコと呼ばれる鶏を大きくしたような魔物だった。
エアリアルではこのような動物から派生した特殊な進化を遂げていない魔物に、特別な名前がつけられることはない。
例え似通った種類の魔物が出てきようが、一律で犬や鶏と言った誰でも分かるような名付けがされていたことだろう。
覚えることが多くて少し大変だが、それにより階層ごとの出現する魔物の情報がすぐに検索できるから悪い話ではない。
4階層のクルコッコを倒し終えると理紗達がコメントと会話をしながら進んでいく。
【勇者は言葉分からないの?】
【自動音声に切り替えたら?】
【勇者の強さがあれば条件武器は必要ないと思います。それを僕のチームに譲ってください】
【定期的に変なの湧いてんな】
【特級武具は深層潜ってる人でも持ってるの珍しいからね。そりゃこんな浅い階層潜ってる人が持ってたら嫉妬するでしょ】
「自動音声にしたら理解出来るけど、慣れるまではコメント見なくていいかな」
「りっちゃんと僕が必要なことだけ伝えるから心配しないで」
【りょ】
【探索者養成学校の二台巨頭の二人とチーム組んでんだからな。初めの方のコメントはそれ関連の嫉妬民が鬱陶しかったし】
【拙者もいつでもチームに入る準備出来てるでござるよ】
5階層に進む前に理紗がダンジョンカメラに向かって説明している。
「今回の目的はレオ以外の誰かがあの武器を使おうとするとどうなるのか、フロアボスを使って検証してみるの」
【それは気になる】
【使いこなせてないとしても少し弱体化するくらいなら欲しがる人いそう】
【フロアボスが勇者の剣を手に入れた】
【炎姫がつかってみたら?】
「私が使う? 嫌よ。まだ死にたくないし」
【……冗談、だよね】
【ペナルティ大きすぎない?】
【流石にそこまでないと思うけど、特級クラスの条件武具の副作用は気になるところ】
聖剣を他の人が握るとどうなるのかは正直分からない。負傷して這々の体で逃げ出した時も敵に渡すような真似はしなかったし、何より普段は亜空間の中に入れている。
5階層に入ると聖剣を呼び出して一人前に歩いて行く。そして召喚中の魔物の前に置くと少し距離をとった。
不安な気持ちがないわけではないが、今後、聖剣が俺以外を選ぶことがあれば手放さなくてはいけない。その予行演習だと考えていたのだが……。
【ワクワク】
【めちゃくちゃ綺麗な大剣だな。観賞用でも売れるんじゃね?】
【ゴブリンがあの大剣持つとシュールな絵になりそう】
出てきたのはゴブリン三体。真ん中の一体が少しだけ体格が良く、左右の二体は栄養不足なのか頬がこけている。召喚されたゴブリンは俺たちの存在に気がつくと威嚇するように声を上げて錆びた短剣を握り直した。
そしてこちらに向かって来ようとする直前。足元に落ちている大剣に気がついた。
【ちょい外れだな。上位種一体出てる】
【上位種だったらワンチャンあるかも】
【本来の性能は引き出せないと思うけどな】
【それでも今持ってる獲物よりはマシじゃね】
体格のいいゴブリンは自分が持っていた短剣を地面に捨て、大剣に手を伸ばす。
ゴブリンがグリップを握ると──無数の風の刃に襲われてミンチになって四散した。
【ふぁっ!】
【何が起きた!】
【炎姫が何かやったのか?】
【やってるはずないだろ。炎姫今の見てちょっと引いてるもん】
【あんなの怖くて握れねえよ】
残りのゴブリンたちも知能が低いのか欲が出たのか分からないが、聖剣を握り初めのゴブリンと同じ末路を辿る。聖剣には返り血一つついておらず、上々の結果だと安堵の息を吐く。
【……聖剣浮いてね?】
【勇者はマジシャンだった?】
【何がドロップ武器はダンジョンからの贈りものだよ。呪いの武器の間違いじゃね?】
聖剣は俺の肩ほどの高さまで浮き上がると凄い勢いでこちらに迫る。聖剣なりに手心を加えてくれているのか刃は逆の方向を向いている。
これが並の戦士なら受け止めきれずに大怪我するだろうが……。
【受け止めた】
【何であの速さで飛んできたのを片手で掴めんだよ】
【今回は暴発しないな】
【資格のないやつが手に取ったらああなるってこと?】
【頼むからあの大剣いらなくなったとしても廃品回収には出さないでくれ】
【草w】
【あの大剣の資格はどの学習教材で取れますか?】
「多分私が握っても同じことになるわね……。触るの我慢しといて良かったわ。これでしつこい購入希望のコメントが減るといいんだけど」
【そりゃ減るっしょ】
【今の見て使いたいって連中は自殺希望者と変わらん】
【でも世の中には一定数の馬鹿はいるからな】
【俺は選ばれし者だから大丈夫って奴な】
【拙者でござるか?】
【お前は選ばれてないから童貞なんだろ】
【辛辣で草】
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