239話 ゴタゴタ
飲み会を開けて翌日、鏡花が怒り心頭な様子で俺の部屋にやってきた。
「あのクソ役人ども。絶対許さん」
「……すまんが俺の朝飯を食べるの止めてもらってもいいか? それ紬の手作りなんだよ」
「ストレス発散には戦闘と美味い飯に限るな。大丈夫だって、今度うちがしっかりしっぽりとお礼してやるから」
「いや、まあ鏡花なら紬も文句言わないと思うからそこまで求めてないんだが、何をそんなに怒ってるんだ?」
流し込むようにビーフシチューを食べ終わった鏡花が、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに俺を見る。
「聞きたいか? ならじっくりと話してあげるよ。そして最後は頑張ったうちを慰めてくれ」
「……俺はギルドの関係者じゃないぞ?」
鏡花の仕事のことだとは察しがつく。
話しを聞く分には全然構わないのだが、機密情報を漏らしたと他の奴らに文句を言われるのは困るのだ。
「大丈夫だって。勝手なこと言った役人たちには抗議の連絡いれるし、世間にも出てくる情報だから。それにこれはレオにも関係ある情報だろうからな」
「俺にも?」
鏡花の言葉に首を傾げる。
俺に関係あるとしたらダンジョン武具の取り扱い制度だろうなと予想したが、全く違った。
鏡花の説明によると、ここ数週間で海外の有名どころの探索者が大勢押し寄せてきているらしい。
そういえば悟も海外勢が増えてきていると、飲みの場で言っていたな……。
「奴ら政府の人間と勝手にやりとりしてたらしい。政府はダンジョンの利権を持っていないのにな。だから連中、ギルドの受付にきて当たり前のように上から目線で話をしてくるんだ。本当……全員ぶっ潰してやりたいよ」
「探索者が増えるのはいいことじゃないのか?」
有名どころなのであれば腕はそれなりに高いのだろう。
突発的なスタンピードがある以上、戦闘能力を持つ人間が多いにこしたことはない。
だが鏡花は首を横に振る。
「海外勢が増えたところで潜るのは、奴らにとって旨みのあるダンジョンだけだ。そんなことを許可してしまえば、日本人の探索者が他に追いやられてしまうんだよ。海外勢の無制限のダンジョン利用許可は、長期的に国力を低下させる要因になる。だからどの国も他国の探索者の受け入れ数は、規定値をオーバーしないように決めてるんだけど……」
どんなに強い探索者がきたとしても、目当てのものが手に入れば自国に帰ってしまう。
だから海外探索者の制限は必要な措置なのだと鏡花は言う。
もちろんこれは海外も同様に行っており、日本はそれと比べると比較的緩く設定されているようだが……。
「そんなに日本のダンジョンに潜りたいのか? 海外にも十分過ぎるほどダンジョンはあるのだろ?」
「有象無象のダンジョンなら足りてる……というより少し多いくらいかな? 国土の狭い日本とは違って、向こうは広いからね。突発的なスタンピードも度々起きるし、なんならスタンピードが起きる前提で管理されてるダンジョンもある」
やはり海外でも旨みの少ないダンジョンは無視される傾向にあるらしい。
人口が密集している日本とは違い、海外にはあえてダンジョンの近くに住む必要がないほど土地が余っている国もある。
そのような国は旨みの少ないダンジョンは攻略せずに孤立させて、定期的に起きるスタンピードを無理矢理押し込めて維持をする。
そんな海外勢が狙うダンジョンは……。
「みんな新宿ダンジョンに潜りたいのか。やっぱりショップが目的なのか?」
「それもあるけど、潜っている人たちも関係あると思う。理沙たちと潜っているレオならわかるだろ?」
「……見習い相手なら押し通せると思ったわけか」
鏡花は否定も肯定もしなかった。
ただ拳を握り口を引き結ぶ。
「新宿ダンジョン自体がトラブってるからそこまで影響出ないけど、普段の状態に戻ると奴らも……ああ! 忘れてた。レオ、最後にショップに行った時、変わったことあったか?」
「あるにはあったが……上手く説明できそうもない」
「……もしかしてショップの店員に戦闘を挑んだりした?」
「まだしてないな」
疑いの目を向けてくる鏡花にそう伝えると、ほっと息を吐く。
「これはセーフかな? ……いやまだ安心するのは早い。相手はレオだぞ」
「何をぶつぶつ言ってるんだ?」
「最初から最後まで何かあったかうち説明してくれ。大丈夫怖くないから。きっと大丈夫だから…….」
鏡花は独り言で何か話したかと思えば、頭を振り払い俺に詰め寄り、懇願するように問いかけた。




