23話 情報公開
2階層の魔物は食い出のありそうな猪だった。特殊な効果は持っていなく、ただ突っ込んで来るだけ。まずはお手本と理紗が腕を前に突き出す。
《線香花火》
理紗の呟きと同時に無数の魔力の粒が猪の首元に付着。複数回にわたって小さな爆発を起こした。
「これが一般的な戦い方。私たち魔法使いは出来るだけ最低限の力で魔物を倒せるようにしてるの」
【猪突猛進とはいえ高速で移動してる相手の首にピンポイント狙撃してて普通?】
【炎姫、俺今度炎姫の通う学校に辞書を献本するよ】
【普通の文字にマーキングするの忘れるなよ】
「りっちゃんの性能も大概あれだからね。これで慣れちゃったら後でびっくりするかもだけど……まあいいか」
【そう言うあんたも大概定期】
【普通はヒーラーは介護要員だからな】
【やっぱ空飛べんのは反則だよな】
【普通の人には空を飛ぶ感覚ってのは分からないからな。魔法で真似しようにもかなり難易度高い】
二十体ほどいた猪の魔物の半数が理紗の攻撃によって倒れた。程なくして空気に溶けるように消えていき、猪がいた場所には小さな魔石だけが残った。
「肉は取れないのか。食い出がありそうだったんだが」
「食料を集めたければ他の特殊型ダンジョンに潜った方が早いわ。そこでは魔石が落ちない代わりに魔物の肉をドロップするようになるから」
「ドロップ品が嵩張るから僕たちはあまり行くことはないんだ。その代わり深い階層からドロップする肉はかなり絶品なんだって」
理紗の言葉に紬が説明を加える。
【アイテムボックス持ちでないと効率悪いからあんまいく意味ない】
【確か勇者アイテムボックス持ちだったよな?】
【マジで? いいなあ、ダンジョンギフト。俺もアイテムボックス使えるようにならないかな】
【勇者のアイテムボックスどのくらい容量入るんだろうな。それ次第だろ】
【勇者は戦わないの?】
「そうね。一度見てもらいましょうか」
コメントを眺めていた理紗がこちらに振り返る。
「レオ! 残りの魔物と戦ってみて」
残り十体程度。近くにいた魔物は理紗が全滅した。後は少し離れた位置からこちらを警戒している残党だけだ。
理紗がこちらに下がってくると魔物もじりじりと距離を詰めてくる。
【低階層の個体だとしても援護くらいはしてあげたら?】
【一人が相手取るのは少し難易度高いよ】
【勇者大剣使う気ねえじゃん】
猪の魔物の元に歩いて行くと堰を切ったように飛びついてくる。俺は何もせずに待ち構え、先頭を走る猪の頭に手の平を差し出した。
【受け止めた? 素手で? この人剣士じゃなかったの?】
【片手で持ち上げてんじゃん。どんだけ力があんだよ】
【持ち上げた魔物が消えかけてるってことは致命傷負ってるってこと?】
【頭蓋骨握りつぶしてんだろ。変な音聞こえるし】
【投げ飛ばしたよ。何なのこの人】
【この人に武器って必要? 金棒とか持たしたら映えそう】
序盤にぶつかってきた二体の魔物を使って、五体の魔物を仕留めた。残り五体の魔物は力の差を感じて少し怯えながらも逃げる様子はない。
全てを全滅させるのに一分はかからなかった。
戦闘を終え、落ちた魔石を回収していると理紗がカメラに向かって口を開く。
「さて、何か私に言うことは?」
【疑ってサーセン】
【これが勇者? どちらかと言うと魔王の方じゃ……】
【勇者の持っている大剣が条件武器でまともに扱うことが出来ないって噂本当?】
【違法所持ってことか?】
【馬鹿か。所持資格があるのはAランクのドロップ武器からだよ】
【宝の持ち腐れには違いないけどな】
【使えないのなら五十万で買い取るぞ】
「好き勝手なこと言わないで。嘘を吹聴してる人も後でコメント制限かけるからね。レオの持つ武器のことなんだけど見せた方が早いか。レオ! 探索証カメラに見せて」
【ドロップ武器の所持情報って探索証に明記されたっけ?】
【条件武器はされたはず】
【なら噂は本当ってことか】
亜空間から探索証を取り出しカメラに向ける。この流れは昨日の夜に打ち合わせをしていた。
俺が強力な武器を持っていることを公開した上で、それが俺にしか使えないことを認めさせる。
これが成功すれば絡んでくる馬鹿な連中も減るだろう、という話だった。
【は? 特級の条件武器所有?】
【あの大剣そんなにすごい武器だったのか?】
【二千万で買います。売ってください】
【特級の武器が二千万で買えるわけないだろ乞食が】
【オークションに出せばいくらくらいするのかな】
【扱えないのならそれも有りだね。性能次第だけど数十億にはなるかも】
「あの武器がどんなものなのかそんなに知りたい? ……仕方ないなあ。ならまずは人型の魔物がいる5階層のフロアボスまで直行しましょうか」
ニヤニヤと笑みを浮かべてコメントを読んでいた理紗は、満を持して昨日三十分かけて出した策を口にするのだった。
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