229話 綺麗好きのカースドモンスター
「綺麗好きなスケルトンもいるのか。本当に不思議な世界だな」
井戸水で体を洗うスケルトンは武器も持たずに小さな桶を動かしている。
井戸の中は水が少なくなっているのか、ほとんど掬い取れていないがスケルトンは動きを止めることはない。
道中のモンスターは石を投げて処理しつつ、ドロップアイテムの回収は背負い籠を持たせた土人形に任せて謎の行動を繰り返しているスケルトンまで向かった。
【一家に一台土人形】
【いや、戦闘で使えよ】
【あれカースドモンスターじゃない?】
【なんで水浴びしてるのよ】
【無視していけそうだけど、勇者近寄っていってね?】
【勇者瘴気耐性大丈夫そ?】
スケルトンの大きさは俺とさほど変わらず、眼窩には目の代わりに浅黒い魔石が入っている。
エアリアルでは浅黒い魔石は魂の穢れの証だったが、こちらではどういった意味を持つのだろうか?
体から撒き散らす瘴気は虫型のイレギュラーが生み出したものと比べると微々たるもので、俺の体を害することはできないだろう。
「おい! お前何をしてる?」
言葉が通じることを目的ではなく、こちらに気がつかせるために声をかける。
背後から切り捨てることも可能だが、できることなら正面きって戦いたい。
スケルトンは手を止めて振り返ると――再び水浴びに戻った。
【無視されてやんの】
【カースドモンスターって変な個体多いよな。やけに強かったり、賢かったり】
【勇者キレてて草なんよ】
殺されないとたかをくくっているのだろうか?
スケルトンの舐め腐った態度に沸々と怒りが湧いてくる。
「いいだろう。お前がその気なら俺にも考えがあるぞ」
綺麗好きなスケルトンにそう告げると、亜空間から水壺の魔道具を取り出した。
【水責めで草】
【スケルトンも心なしか嬉しそう】
【貴族の遊びみたいなことしてんな】
【勇者やさちい】
スケルトンの頭から水をかけること数分。
結構な勢いで流してやるとようやくスケルトンが動き出した。
「満足したか? ならとっとと戦おうって……は?」
ここまでお膳立てしてやったのに、スケルトンは光の粒子になって消えてしまった。
代わりに残されたドロップアイテムのハンマーがポツンと地面に置かれている。
ハンマーの全長は俺の身の丈ほどの大きさで、柄の先には白鉄に金の装飾が施された金槌がついている。
震える手でハンマーを亜空間に回収すると。
【成仏してやんの】
【こんな殺しかたあるんだな】
【瘴気魔石なら聞いたことあるけど、カースドモンスターってドロップアイテム落とすんだ】
【これも初?】
【外国で落ちたことあるって聞いたことあるけど日本では初かな?】
「……次見かけたら問答無用で殺す」
そう心に決めると、無駄な時間を取らされた怒りを他のアンデットに八つ当たりしていった。
ランドマーク持ちも手短かに処理して、次の階層に移る。
階層の扉は隠されておらずすぐに見つかったので、あまり時間はとられなかった。
四十五階層まではずっと廃墟階層らしく、次の階層も似たような見栄えの建物が並んでいる。
先ほどよりも暗く感じるのは、点在する明かりの量が少なくなっているからだろう。
地面は石畳で足音が目立つため、スケルトンの奇襲を心配する必要はないが、普通の探索者はどう攻略しているのか気になるところだ。
理沙の話だと普通の探索者は一週間程度使って廃墟階層を越えるらしい。
俺としてもアンデットのいる中で寝泊まりしたくはないため、急いで階層更新を進めていくが……。
四十三階層を攻略中、ダンジョンカメラから自動音声が届いた。
『そこの噴水の中に魔石を投げ入れてみて。そろそろお昼ご飯の時間でしょ』
【こいつ二時間足らずでここまで来やがった】
【身体強化ってすげえな】
【普通は安全地帯のない中で野宿するのが当たり前なのに】
「噴水?」
俺がいる広場の中心に白石で造られた建造物があるが水は出ていない。
周りにそれらしきものは他になかったため、土人形が回収していた魔石を一つ放り込むと、中心にある羽が生えた獣の像の口から水が溢れ出してきた。
「……飲み水には困ってないんだが」
魔石を代償に水を入手する。
補給場所が少ないダンジョンの中では喜ぶところだろうが、生憎と俺は水を生成できる魔道具を持っている。
貧乏性と言えるだろうが少し勿体無い気でいると、ダンジョンカメラから説明が入った。
『その水が出てきている間はモンスターは近づけないようになっているの。腐肉型のアンデットの臭いも防げるわ』
そう言われると臭いがしない気がする。
ここの階層に出てくるモンスターは肉のないスケルトンだが、廃墟特有の湿気とカビの臭いが混じった重い空気が漂っている。
俺に染みついた臭いは排除できていないので、それなりに臭いは残っているが、かなり快適に過ごせるだろう。
ダンジョンカメラにお礼を言うと、以前紬が作ってくれたモンスターの肉を使った焼き鳥丼を食べ始めた。
【安全地帯知らないってマ?】
【その程度の情報も知らないとは……まだまだですね】
【無知は罪なり。浪人中の兄もよく言っていることだよ】
【ここぞとばかりにマウントとってきてやがる】
【だが今から食すのは美人が作る愛情こもった弁当……】
【生意気言ってすいませんした】
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