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異世界勇者は常識知らず〜魔王を討伐した勇者が、地球で魔王とダンジョン配信始めました  作者: 冬狐あかつき


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224話 武者震い


 現れたモンスターは三面六臂(さんめんろっぴ)の体を持ち、胴体には戦国時代の武将のような、美しい装飾を施した鎧を纏っている。

 正面には強面の男の顔が、側面には若い女と老人の顔が一つの首から分かれるようにしてついていた。


 生物学的に異質なその見た目に、樹は震える声でレオに声をかける。


「またモンスターが召喚された。レオくん、まだ戦うことは出来るかい?」


「問題ない。お前は邪魔だから下がっていろ」


 片手であしらうように伝えてくるレオの返答に、樹は少しホッとしながらも、不安が拭いきれない。

 それは巻き添えを食らってしまうのではないかというものではなく、彼があのモンスターに勝てるのか疑問なのだ。


「気をつけてくれ。回復薬も渡しておきたいんだが……」


「効かないと思うが、一応飲んでおく。渡してくれるか」


 樹はスーツの下から、回復薬が入っている小さなボトルを三つ取り出して、結界の外に出す。

 三つのボトルは周囲に渦巻く風に運ばれて、レオの手の中に運ばれていった。

 

 樹とてかつてはいくつものダンジョンを踏破してみせた実力(深層があるような難易度の高いダンジョンではない)の持ち主。

 新種のモンスターに出会うことは何度もあったし、その都度上手く切り抜けてみせた。

 その勘が言っている。

 ()()()()()()()()()()()()()……。


 レオはボトルの蓋を風の刃で切り裂いて一気に飲み干す。


「効いたのかい?」


「……喉乾いてたんだ。助かったよ」


 レオが手をあてて傷口の状態を確認しながら返答する。

 樹が用意していた人工回復薬は、ドロップ素材をふんだんに使った最上位の性能のものだ。

 ダンジョンドロップするレアものには劣るが、それでも未熟なヒーラーの回復魔法を超える程度の効果はある。

 レオは変わらぬ体調の悪さを誤魔化すように首を鳴らすと、モンスターの元まで歩いていった。


 周囲に風を展開し、相手の攻撃を待ち受ける。

 

 モンスターが樹の視界から消えた次の瞬間、レオが壁に叩きつけられ、レオのいた場所にモンスターが足を蹴り上げた状態で立っていた。


「レオくん!」


「大丈夫だ」


 レオが衝撃で大きく凹んだ壁から抜け出し、着地する。

 大きなダメージを負った壁は会場の下、地面に埋めてある魔道具の力によって修復されていくが、焼け石に水だ。

 彼らが本気で戦えば生き埋めは免れぬだろうと、樹は唇を噛み締めた。


「力は完全に負けてるな。……出来ることなら万全の状態で戦いたかった」


 お得意の魔力圧縮を封じられているとはいえ、この結果はレオの予想外であった。

 身体強化を使えていたイレギュラーを凌駕する力とスピード。

 レオの視界は徐々にマシになってきているが、まともに見えるようになるまでには戦いが終わっていることだろう。


 レオは持ち手から聖剣に魔力を流していく。

 大量に流し込んだ魔力は、聖剣によって何かの力に変換されて逆流し、レオの体は薄緑色の光を纏った。

 

 レオを吹き飛ばしたモンスターは、その様子をじっと見つめながら……突然奇声を発する。


『――キィあっ! ……ズルい! ズルい! ズルい! ズルい!』


「何だ⁉︎ モンスターが喋って……」


 見た目に似合わず、幼子のような声でモンスターは同じ言葉をわめき立てる。

 またかといった反応のレオと裏腹に、樹は驚愕に目を見開いて驚いていた。

 

 これで準備は整ったと、レオは静かに聖剣を構える。

 聖剣によるブーストは、限界まで圧縮した身体強化の力を凌駕する。

 神に近しい大精霊の力なので当然なのだが、先ほどの攻撃が相手の全力なのであれば、少し前に戦ったモンスターと同じように倒しきれる……はずだった。


「レオくん! モンスターが光って――」


「ぐうっ……」


 モンスターの体が白く発光すると、ゴキリと音を立てて首がまわり、正面に女性の顔が移動した。

 その瞬間、大気が震えるほどの魔力が放たれた。

 そして──モンスターが生み出した赤黒い魔力の弾丸が、レオの元へ雨のように降り注ぐ。

 展開速度の速さに加え威力も相当なようで、爆弾が爆発したかなような轟音が響き渡った。

 樹も防戦一方のレオを助けようと魔力を込めるが……。


「――絶対に……邪魔するなよ樹!」


「せめて僕も一緒に戦わせてくれ! どうせ君が倒れたら僕も――」


「やっと望みが……叶うかもしれないんだ」


「何だって?」


 劣勢の中で絞り出したレオの言葉に、樹は耳を疑う。

 望みが叶う? やられそうになっているのに?


 モンスターの攻撃が止まり、レオが俯いていた顔を上げる。

 満身創痍だと思っていた樹は、ほんのりと笑みを浮かべているレオを見て、血の気が引いた。

 どうしてこんな状況で笑えるのか、樹には理解できない。

 だがモンスターの力が、レオの何かを刺激したの確かだ。

 レオの体の発光が強くなる。


「なあ……お前は俺に……戦いの果てを見せてくれるのか?」


「――かはっ……」


 レオがモンスターに語りかけた後、空気が変わった。

 粘りつくような殺気が樹を襲い、懺悔するかのように膝をつく。


 

 これはレオが樹を不愉快に思って威圧しているわけではない。

 レオの精神がエアリアルにいた頃に立ち戻っただけなのだ。

 そんなことは知らない樹は、脂汗を流しながら過呼吸気味に息を吐き出す。


「……だめだ。このままでは結界の維持ができ――」


「随分とはっちゃけてるじゃねえかにいちゃん。運動会ならお仲間がいる時にやったほうがいいぞ」


 第三者の声に樹が震えながら頭を上げると、部屋の隅にはいつのまにかスーツを纏った男が立っていた。


 

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