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異世界勇者は常識知らず〜魔王を討伐した勇者が、地球で魔王とダンジョン配信始めました  作者: 冬狐あかつき


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223/257

223話 ……どっちが怪物?


 乱入者の死亡により、レオの聴覚はモンスターの位置を正確に捉える。

 モンスターは二人を殺した後、樹たちには目もくれずに勇者の元へ集まってきていた。

 レオの視界は不明瞭で、魔力も上手く操ることができない。乱入者が用意した毒は、未だレオを苦しめている。

 体を蝕む毒は体感で考えるに、命を奪うまでには至らぬだろう。

 ならば何も問題ないとレオは判断する。


 気配察知もままならない状況で、相手の力量を測ることはできない。

 油断して殺されることほど馬鹿らしいこともないので、樹の言葉に従い聖剣を取り出すと――固まってレオを見ていたモンスター達が一斉に襲いかかった。


「レオく――」


 目にも止まらぬ速さで動き出したモンスターに、伊藤が声を上げて知らせようとするが、あまりにも遅い。

 大きな耳がついているモンスターが、レオの正面から棍棒を振りかぶり、大きな目だけがついているモンスターが、レオの右側から大斧を振りかぶる。

 

 多勢に無勢、伊藤が切り札を使おうと魔力を練り上げた時、伊藤の視界からレオの姿が消え、攻撃を仕掛けたモンスターが大きく血飛沫をあげた。


「……怪物」


 伊藤はいつの間にか離れた場所に移動したレオを見つけ呟く。

 彼がわざわざ移動したのは、巻き添えを出さないようにするための心配りだということはわかっている。

 だが……それでも、伊藤の心に宿るのは、味方が優勢なことへの安堵ではなく、異常すぎる力を持つレオへの恐怖だった。

 

 味方のうちはいい。こんなに頼りになる戦士はいないだろう。

 だが敵に回ってしまったら?

 伊藤は震える体で樹に視線を送ると、樹も同じ考えを抱いたのか眉を寄せて難しい顔を浮かべている。


 レオが俗物的な性格の持ち主なら二人も悩むことはなかっただろう。

 資金力でいえば世界で活躍するギルドや、内海家を超えるところはほとんどない。

 

 ……あの馬鹿げた提案も真面目に考える必要があるかもなと、伊藤は考えを改めた。




 


「……これなら普通の武器でも良かったな」


 強すぎる聖剣の力にレオは独りごちた。

 レオが先ほどやったことは、聖剣の権能をフルに使ったゴリ押しだ。

 風の刃を周囲に張り巡らせて相手の居場所を察知し、魔力を使った身体強化とは別の肉体強化で攻撃しただけである。

 肉体強化は意思を持つ聖剣自らが施すことにより、毒の影響を無視し、風の刃は数倍の魔力を使った魔法でもない限り消し去ることはできない。


 ……だが生き残りのモンスターの中に、老婆の魔法を無効化した者がいる。

 前後に口がついているモンスターが、息を吸い込む吸い込むような動作をみせると、レオがため息をはく。


「自殺志願者か? お前に扱えるわけがないだろ」


 あえて制御を外した風の刃が大口に吸い込まれていくと……モンスターの体を内からズタボロに切り刻んだ。


 いつかの探索でゴブリンが聖剣を手にした時と同じである。

 この聖剣は気位が高く、自らが認めた者にしか触れることを許さない。

 聖剣のお仕置きは、身の程を知らぬ愚か者を肉片にし、観戦者をさらなる恐怖へ陥れた。




 伊藤がレオの援護を完全に放棄して樹の元に駆け寄っていくと、倒れている人たちをできるだけレオから離すように移動させる。


 護衛は問答無用で放り投げ、企業の上役も普段では考えられないほど雑に運んで避難させた。


「……頼みますよ黒峰さん。あなたの結界だけが頼りなんです」


「無茶言わないでくれよ! 君の切り札はどうしたんだ!」


「切り札? ははっ……あんなの使ってもサイコロステーキになるだけですよ」


「駄目だ……完全に心が折れてる。自信を持つんだ柚木くん! 君は内海家の一番護衛だろ!」


 壊れたように笑う伊藤の肩を樹が揺らす。

 伊藤は乾いた笑いを漏らしながら、戦闘から蹂躙に切り替わった戦いを見守った。



 


「終わったぞ! 後はどうするんだ?」


「他の人たちを避難させたい。僕たちが動いても大丈夫かい?」


「動きたければ好きに動けばいいだろう。変なことを言うやつだな」


 敵がいなくなったのにも関わらず、ビクビクしながら聞いてくる樹に、レオは首を傾げる。


 


「……俺を敵対視してた奴、か。いったいどこのどいつなんだろうな」


「何か言ったか?」


「何でもない」


 扉を開けるために近くまで来ていた伊藤が、レオの呟きに反応するが、ちゃんと聞こえてはいなかったようで「報酬ならたっぷりと色をつけて払うから安心してくれ」と続けて外に出て行った。


 その言葉でレオは肉の回収を思い出し、聖剣の力でドロップした肉を収納しようとしようとしたのだが、一つも回収できない。


「どうした? もう入らないのか?」


「レオくん! モンスターの肉が光ってる!」


 レオが小声で聖剣に問いかけていると、壁際で結界を張っていた樹が声を上げる。

 レオの視界は戻っていないが、樹のあまりの慌てように、彼を守れるように移動する。


「肉はどうなってる? 光ってるだけか?」


「中心に集まっていってる。……何が起きるんだ?」


 聖剣の力で肉を消し飛ばせば良かったのかもしれないと、レオは自らの判断を悔やんだ。


「最悪生き埋めになっても耐えれるか?」


「落ちてくる障害物だけならどうにかなるけど、それまでに破壊されたら厳しいと思う」


「じゃあそのまま結界を張ってろ。ある程度の衝撃なら力尽くで押し込める」


 レオが聖剣の腹に指を滑らせながら、魔力を流し込む。

 切先まで指を流すと、レオの体は暴風につつまれた。


「これは魔法なのか?」


 樹がレオが発生させた風を見て呟いた。

 レオの前方にあった机や棚が彼が生み出した暴風によって、ミキサーにかけられたように破壊されていくが、背後にいる樹の結界には何の負荷もかかっていない。


 モンスターの肉塊が一点に集まり、地面に大きな魔法陣を発生させる。

 魔法陣から溢れんばかりの魔力が発生し、地面から出現した黒いカーテンが肉を覆った。


 グジュグジュと身の毛もよだつ音が部屋に響き渡る。


 黒いカーテンが晴れた時、そこには一匹の怪物が立っていた。


 

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