22話 初配信
一階層の芋虫は理紗の魔法の餌食となった。小さな魔力の塊が飛んでいき、着弾と共に爆破を起こす。
一階層の魔物は一般人でも倒せる強さらしく、あえて魔力を使う必要性が感じられない。それを理紗達に聞いてみると……。
「嫌よ。絶対触りたくない」
「僕はヒーラーだからその辺はアタッカーのりっちゃんに任せてるの」
「……紬でも倒せるくせに」
「それを言うならりっちゃんもでしょ! 私の仕事はほとんどないかもしれないけど、りっちゃんは階層を進むために魔物を倒さなくちゃいけないんだから」
互いに言い訳を重ねて押し付け合う。それほど二人とも虫型の魔物が苦手らしい。
魔物の全滅を確認した俺達は次の階層へと向かった。
ダンジョン配信の義務は命の危険がある二階層かららしいので、それまでに禁止事項なども理紗たちから説明がある。
「とりあえず貴方が勇者だってことは隠さなくていいから。変に隠そうとして後でボロが出るよりかは公開した方がいいわ。キャラ作りのためにロールプレイを演じている人もいるしね」
「例え魔物の攻撃で服が破けても配信AIが自動的にモザイクをかけてくれて見えないようになっているの。だから気をつけるのはレオさんの言動かな?」
「俺は農民の子で傭兵育ちだ。お上品な言葉遣いなんて習ってないぞ?」
紬の言葉に顔をしかめる。舐められないよう言い回しや態度なら自信があるが、そう言う意味ではないのだろう。
俺の言葉を聞くと紬は顔を赤くして俯く。
「喋り方は好きにしてくれたらいいんだけど、僕の言っていることはもっと別のことで……」
「別のこと? 他に何があるんだ?」
困っている紬を見て理紗が目を逸らす。彼女から助け舟が出されることはないようだ。
「それは、その……エッチなこと、とか?」
紬が言うには配信は不特定多数の人たちに見られる。だから未成年の子供が見てもいいような言葉遣いを心掛けなければいけないらしい。
そこまで話すと二階層の扉にたどり着いた。今回は先に階層を進めていて特殊な魔物を討伐しているから、こんなに早く着くことが出来たが、初回はもっと時間がかかるらしい。
二階層に進むと俺たちの姿を追っていたダンジョンカメラが起動する。空中に文字が投影され、すごい勢いで流れ出した。
【勇者様初配信おめでとう!】
【炎姫の告知から来ました】
【昨日は助けてくれてありがとう】
【炎姫の男気取りかよ。早く⚪︎ね】
【早速嫉妬民が来てんな】
この世界の文字は見ることが出来ないため無視していると、横で確認していた理紗が冷たい声色で言い放つ。
「命の恩人に誹謗中傷した人は後で確認して永久にブロックするからそのつもり発言してね」
「ちなみに私も同じ意見だからよろしく。サポーターだとしても例外はないよ」
二人の言葉が終わるとコメントの速度がゆっくりになった。俺の存在をよく思わない者が少なからずいたと言うことなのだろう。
「さて、コメントも落ち着いたことだし今日の目的を説明するわよ」
【古参アピしてたサポーターが永久ブロックくらってご飯おいちい】
【二度とそのアカウントで配信見れないねえ】
【頼りになる前衛いるから階層進めるの?】
「階層は進めない。今日のところは常識的なダンジョン攻略のやり方をレオに教えて……後は常識外れな彼の性能を見てもらおうかな」
【後衛一人でダンジョン潜ってる炎姫が常識的な攻略? 片腹いたいわ!】
【常識的な攻略だったら昨日の二人連れてきた方がいいのでは?】
【勇者の戦い見れるんだ】
「しばらくはレオと紬の三人で攻略するつもりだから他の人と組む予定はないわね」
【何……だと!】
【両手に花かよ】
【前衛後一人くらい入れた方が良くない?】
「構成に文句があるなら次の配信で聞くわ。だから今は楽しんで見ててね」
理紗がダンジョンカメラにそう伝えると、眼前の魔物に向かって魔法を放ち始めた。
皆様の応援のお陰で日間ランキングの70位に入ることができました。
ブクマ、評価して頂いた方に心より感謝を申し上げます。




