214話 結界の反応
「何を馬鹿なことを言っているんだ! 魔法犯罪の疑いがある者に魔法を使わせる馬鹿がどこにいる! 黒峰さん、余計な真似はしないように。ここで魔法を使えば、あなたの立場が悪くなりますよ」
春の頼みに待ったをかけたのは、一番護衛と名乗っていた伊藤だった。
伊藤の忠告はかなえを守る護衛として真っ当なものである。
樹の魔法を受けて人が倒れている以上、あえて魔法を受けるリスクを負う必要はない。
だが……。
「やっちゃって、やっちゃって。さっきと同じ性質のものを二つ。それで答えが出るからさ」
「答えって、何の話をしているんだい? それに今大人しくしてた方が疑いは晴れ……」
「多分晴れないよ。あたしの勘がそう言ってる。今が瀬戸際、時間がないからとっととしてよ。もしあたしの頼みを聞いてくれないんだったら……海斗っちに攻撃でも仕掛けようかな?」
春の表情は無表情で変わっていないが、早口でまくし立てるような言葉から、彼女の焦りが伝わってくる。
樹は春の提案を断ろうとしていたが、春の最後の脅しに俺の顔を見た。
「息子が襲われたら守ってくれるかい?」
「息子も守ってやる」
樹は俺の返答に苦笑すると、伊藤に向き直る。
「柚木くん。すまないね。一度だけ我慢してほしい。僕の魔法が原因だとしたら、後でどんなことも甘んじて受け入れよう」
「馬鹿の口車に乗せられないでください。あなたが魔法を行使しようとすれば、結界が発生する前に私の魔法の中に引きずり込みます」
伊藤が手を前に差し出すと伊藤の影が不自然に動き、樹の影へと向かっていく。
影が触れ合う直前、伊藤の背中に向けて春が何かを投げ込んだ。
【ルーク起動】
「私の動きを止めてどうする! まさかお前、内海家を裏切ったのか!」
彼の身長より少し大きいくらいの石造の建築物が突如出現し伊藤を閉じ込める。
それと同時に、樹に迫っていた伊藤の影も途切れた。
「春ちゃん、こんなことして後で怒られないのかい?」
「慣れてるから大丈夫。3、2、1で魔法を解くから結界を張って。そうすれば柚木の魔法も届かないから」
『お前ら、誰の許可を得て魔法を使っているんだ! 早く魔法を消せ』
『魔法を使って警察の捜査を撹乱しようとしても無駄よ。私たちは一部始終を見ているんだから!』
「春さん、勝手なことをしたら駄目だよ。今すぐ魔法を解除して。このままだと春さんまで疑われるよ」
観客からの怒声に怯えたかなえが、心配そうに声をかけるも春は首を横に振る。
自分の雇い主からのお願いを拒んでまで強行する理由は俺も気になる、が。
「やるなら早くした方がいいぞ。中で魔力が高まってる」
「魔力が高まってる? 君、探知系の魔法使いだったんだ。だとしたら早くしないと。黒ちゃん準備はいい?」
「いつでもどうぞ」
春は数字のカウントを始める。それに合わせて俺も身体強化を行使した。
来客の護衛たち俺たちの身柄を捕らえよと、指示が入ったのが聞こえたからだ。
春のカウントが終わり、魔法を解除するとそこに伊藤の姿はなかった。
いたのは人型の闇そのもの。闇は四つん這いになり、獣のようにぐるりと鳴いて樹に飛び掛かろうと──樹が展開した結界に拘束された。
春の方も別の結界に囲まれており、無事を示すように樹に向かって手を振っている。
だがもう片方は無事ではなかった。
四つん這いだった闇がぐらりと揺れて、地面に倒れ込む。
闇がとけるように薄くなっていくと、伊藤の姿が現れた。
「春ちゃん、何を証明したかったのかな? もしかして私の有罪?」
引き攣った笑顔で聞く樹は倒れた伊藤に駆け寄ると、首や心臓に手を当てたりしながら確認する。
彼は気を失っているだけで、息はあるようだ。
春は伊藤の容体を聞いても喜ぶどころか舌打ちを放つ。
「これで分かった。会場にいる来客、誰かに操られてる」
春は樹の目を真っ直ぐに見て、そう告げた。
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