21話 ダンジョンへ
ダンジョンに入り、疲れたようにため息を吐いている俺に向かって理紗が声をかける。
「結構モテてたじゃない王子様」
「やめてくれ。聖剣目当てに勧誘されても嬉しくはないよ」
「いや、あの子達は……まあいいわ。言ってもあなた信じないだろうしね」
俺にも勧誘してくる者達も少なからずいた。だけどそれは大剣が手に入るのならパーティーにいさせてやってもいい、という考えの元の勧誘だ。最初の男達が言ってきた馬鹿げた条件がそれを物語っている。
「人の武器をチームの共有財産にする。そんなことがまかり通っている世界なのか?」
武器とは戦場で一番信を置くことが出来るかけがえのない相棒だ。特に一人でずっとやってきた自分にはその気持ちが強かった。
そんな俺の怒りを宥めるように理紗が口を開いた。
「強いチームに入る条件として金品を求めるところはあるわ。一部の探索者の中には強いチームに所属していることで自尊心を保つ人もいるしね。でも今回のように力の差が逆転しているような状況での話は論外だけど……」
「それにドロップ品の共有化は珍しいものではないよ。新規のパーティーだと揉め事が多くなるからね。初めにそうしといた方が楽なの。もちろんパーティー結成前の私物は対象外だけどね」
紬が理紗の肩に顔を乗せながら説明を加える。
その時はドロップ品を一度チーム財産にして、売り払った後に分配されるような仕組みになっているらしい。
「俺達もそうするのか?」
「今まではそうしてきたけど……一人でやっていけるあなたの場合は共有にする意味がないわね」
探索者の中にはドロップ品を手に入れた時に、自分が倒して出たんだから自分のものだと主張する輩が一定数いるらしい。この制度は回復役のような直接戦わない人たちが、割を食わないためにある制度だと言う。
「りっちゃんに聞いたけどレオさんお金持ってないんでしょ? しばらくはドロップ品は独占して大丈夫だよ。私たちは配信料で十分足りるから」
「いや、俺も色々教えてもらう立場だから共有にしよう」
紬にそう伝えると別にいいのに、と渋々了承してもらった。二人には言わなかったが他人に借りを作るのは無性に気持ち悪く感じてしまう。
だから施しのようなものを受ける気にはなれなかった。
ダンジョンの一階はモンスターが出ることはなかった。下へと続く扉の前に年配の男性が立っている。
「おやおや、昨日の今日でもう来たのかい? 少し休んだ方が……」
「大丈夫です岩城さん。それより二十三番お願いします」
岩城と呼ばれた年配の男はため息をつくと、扉についてあるダイアルを回し始めた。そしてダイアルを強く押し込む。
「接続出来たよ。くれぐれも無理は禁物だよ」
「大丈夫です! 今日は頼りになる前衛もいるんだから」
紬が笑って告げると岩城の顔がこちらに向く。そして少し考え込んだ。
「……君はどこかで。まさかニュースになってた?」
「お話はまた今度にしてください! 私たち急いでるので……」
「これはすまない。配信見返すの楽しみにしてるよ」
「じゃあまた。岩城さん!」
理紗が俺の背中を押して扉の方に運んでいく。隣で紬が手を振りながら扉の先へ向かった。
扉を抜けると三十体程度の芋虫がモゾモゾと蠢いている。今のところ俺達に気がついた様子はない。理紗は不快そうに芋虫を見るとこちらに向き直る。
「さて、配信を始める前にここのダンジョンについて説明しようかな。ここのダンジョンは異界型のダンジョンで、探索中に他の人と出会う可能性はまずないわ」
「貸し切りってことか?」
「ここのダンジョンの一階は全て同じだけど、二階層からは枝分かれしてるのよ。同じ番号の設定で扉を抜けないと同じところには辿り着けない。だから私たちの誰かが帰れなくなるようなことがなければ、新しい人が入ってくることはないわ」
それは朗報だ。ダンジョンの中で襲われることも頭に入れていたからだいぶ気楽に進むことが出来る。
そして俺達の話を聞いていた紬がおずおずと手を上げた。
「その……レオさんの武器ってどうするの? 代わりの武器とか用意した?」
「用意してないわよ。同じような話をレオにしたけど、他の武器を使うくらいなら素手で戦うって言うんだもん」
これは俺の我儘で拒否しているわけではない。聖剣を手にしてから……いや、聖剣が力を貸してくれるようになってから他の武器を使うと、聖剣の機嫌が悪くなるのだ。
攻撃した相手に八つ当たりするように必要以上の力を発揮したり、日課の水浴びの時もやけに荒々しくなったりする。
自分の力に耐えきれないような武器に命を預けるよりかは、その身一つで戦った方が不測の事態を回避出来る。そんな考えもあるのだが、この感覚はあちらでも一般的ではなかった。
それを聞いて理紗が出した結論は……。
「配信ではレオは自由に戦ってくれてもいい。勇者ってことも隠さなくていいし、あの大剣も制限する必要はない。下手に制限してしまうと、余計に欲しがる奴らが増えると思うから」
「見せつけても一緒じゃないの? あんなに圧力を感じた武器は見たことないよ」
「そこは考えてあるから心配しないで。まずは人型の魔物が出てくる階層まで進みましょうか」
昨日の夜に告げられた理紗の提案を思い出す。
あれをやって本当に効果があるのかまだ分からない。
だが自信満々に提案してきた理紗を見て、否定する気にはなれなかった。
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