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異世界勇者は常識知らず〜魔王を討伐した勇者が、地球で魔王とダンジョン配信始めました  作者: 冬狐あかつき


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207話 護衛依頼

 

 仕事の愚痴や亡き妻への想いをこぼしていた樹は、空いたガラスのコップを右手に握りながらうつらうつらと顔を揺らしていた。

 不安定なコップを落とさないように回収すると、音を立てないように優しく机の上に置き直す。


 柄にもなく他人の話に付き合ってしまったのは何故だろうか? 

 樹の目的が俺への謝罪なのであればわざわざ酒を勧めることも、長々と言葉を交わす必要もなかったのだ。

 話を聞いてみたいと思ったのも……。


「他人の話を聞いて許された気になるなよ馬鹿が……」


 記憶に薄れた親の姿。

 旅を始めてからは……いや、目を逸らすようにして遠ざけていたそれは、時を経るごとに胸の内をじくじくと傷つけるようになった。


 人に疎まれながら、見苦しく生きながらえている。

 両親が見ていればそう思われるのではないかと……。

 無償の愛なんて陳腐なもので覆い尽くせるほど俺の旅路は綺麗なものではなかったし、褒められるようなところなんてほとんどないだろう。


 両親が、傭兵団のみんなが俺の生き方を肯定してくれるとは限らない。

 だから息子の過ちを理解しつつも、言葉の節々に愛情が感じられる樹の言葉はどうしようもなく眩しかった。





 寝息をたてはじめた樹から視線を外し、琥珀色の酒を静かに揺らす。

 如月を呼びに行こうかと考えていた時、部屋の扉がノックされた。


「話は終わったか……どんな状況?」


「二人で酒を飲んでてな。樹は疲れて寝てるよ。少し飲ませすぎたみたいだ」


「嘘つけ。勝手に仕事馬鹿がキャパ超えて飲み続けたんだろ?」


 部屋に入ってきた鏡花が、先程とは変わり果てた樹の姿を見て目を丸くする。

 酒を勧めてしまったこちらの落ち度だと説明するも、ピシャリと否定される。


「話はどうだった? ムカつくこと言われたんだったら今のうちに殴っといたほうがいいよ」


 起きてたら殴るのも面倒だからなと鏡花は笑う。

 冗談混じりのその言葉の裏には、樹の魔法の実力に対する信頼が感じられた。


「樹は防御の魔法を使うのか?」


「そうだけど話してなかったのか? 樹の魔法は攻撃能力がない代わりに無類の強さの障壁を作り出せるんだ」


 万全の体制で篭った樹の魔法は、うちでも壊せないと鏡花は悔しそうに語る。

 そしてその悔しさを晴らすように、樹の鼻の穴にナッツを入れはじめた。


「いい顔いい顔。写メ撮っとこう。これを他の幹部連中に送って……くひひっ」


 鏡花は携帯を弄りながら楽しそうに笑っている。

 それを見て感じたものは寂しさに似た何かだった。

 俺と鏡花の繋がりは、エアリアルという同郷で生きていたといったことだけ。

 それは鏡花が地球で生きてきた繋がりと比べたら、吹いて飛ぶようなちっぽけなもので……。


 酒なんか飲んだせいで隠していた弱音が顔をみせる。

 お前は満足のいく死を望むためにここにきたんだろ、と自分を叱咤していると鏡花が不思議そうな顔を浮かべた。



「どうしたレオ、そんな顔して? さては一緒にやりたいんだろ。レオも悪戯っ子だもんな」


「俺は別に……そろそろ部屋に戻るよ。樹のことは鏡花に任せていいか?」



「別にいいけど、そういや樹の依頼はどうしたんだ? 断ったのか?」


「依頼? 何のことだ?」


 仕事の愚痴なら聞いたが、俺への依頼なんて一言もなかったぞ?

 亡くなった嫁さんの可愛さを語る暇があるなら、先に話をすればよかっただろうに。


「依頼の内容は樹とその息子の護衛依頼。依頼は一日で報酬は五百万を予定している」


「報酬は魅力的だけど護衛依頼か……」



 普段の探索では一日で精々稼げて二十万。

 それを理紗たちと分けるのでさらにそこから引かれてしまう。

 そう考えれば破格と言っても良いくらいの金額だと思うが、スタンピードで手に入ったモンスターのことを考えると、飛びついて受けるような依頼ではない。


 あまり良い顔をしていない俺を見て、鏡花はため息を吐きながらナッツを手に取り、樹の両鼻に詰め込んだ。

 流石に鼻の穴が変形するほどの量を入れられて寝ていれられなかったのか、樹は苦しそうに目を覚ます。


「……ん? どこだここは?」


「いいから早く手紙寄越しな。持ってきてるんだろ?」


「手紙? 確か右のポケットに……」


 鏡花は引ったくるように樹のポケットに手を伸ばし、一枚の封筒を回収した。

 封筒から取り出した紙には何か書かれており、その下には太陽の教会の象徴が描かれている。


「それはギルド宛に届けられた手紙の一部だ。上の文の内容は、我等国の未来を嘆く者。図に乗った愚者に天罰を、と書かれてある」


「これが護衛依頼と関係あるのか?」


「何処のクソか知らんけど、関係者以外誰も知らないはずの会合の日程も添えてきやがったんだ。予定通り会合をしなければ無差別テロを起こすとも書き残してな……」


「他のところにも似た内容の手紙が届けられてある。会合を欠席すれば不利益が被るような脅しの言葉付きでね」


 舌打ち混じりに鏡花が説明すると、樹が口を挟む。


 同席する予定の者たちからも声がかかり、会合は予定通り行うような流れになっていったが。


「お前の息子も来るのだろう? そんな話なんで先に話さなかった?」


「レオが依頼を受けなかったら、樹の息子は自宅待機させる予定だからだよ」


 下を向く樹の代わりに鏡花が答える。

 樹の息子を同行させるのは鏡花も本意ではないのだろう。

 だから護衛依頼か……。


「俺が守る対象は樹と息子の二人だけか?」


「人数を減らすなとは書かれてたけど、増やすなと要求してはなかったからね。他の連中も各々護衛を増やす予定らしいからその認識でいいよ」


 しばらく考えた結果、俺は護衛依頼を受けることにした。





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