203話 二人っきりだね……
翌朝、ギルドに用意された応接間で俺と鏡花が話していた。
美しいアンティーク調の置き物や、これまた綺麗な装飾が施された机、椅子は布団にでも座っているのかと思うほどにふわふわだった。
「会って欲しい人がいるって話だったんだが、それはギルドの関係者か?」
「ギルドの幹部の一人だよ。対外的なやりとりを担っている奴だ」
交渉役か。理紗と紬がいない分、鏡花が同席してくれるのは有り難いが、彼女とてギルドの人間。
あまり信用しすぎるのも良くないだろう。
「そういえばミミックの魔石、ドロップするようになったんだって?」
「下層のミミックだけどね。低確率で落ちるようになったんだよ。でも効果が効果だからな、所持制限かけるかどうか話し合ってるところだ」
ミミックの宝石が持つ偽装の効果。
例えば俺が持つ人形もそれ以上の価値を持つダンジョン武具に変化してしまえば、詐欺まがいのこともやってのけれるかもしれない。
人形の性質上ダンジョン武具の特殊効果を真似することはできないが、それでも手にした時にしか判別することが出来ない。
「レオの人形を没収することはないから安心してよ。話の流れ的にもギルドが所持を認める形で管理するようになっていきそうだから」
「それはよかった。ちょっと悪いが朝飯を食べさせてもらうぞ。寝起きできたからぺこぺこなんだ。鏡花も食べるか?」
「そんな暴力的な匂いさせておいて断れるわけないだろ。……美味っ! このハンバーガーどこで買った?」
「これは紬の手料理だな。正直お腹があんまり空いてなくても食べそうになるから、最近はあまり手を出さないようにしてるんだ」
「紬の手料理ってことはモンスターの肉を使ってるのか。贅沢だね」
大口を開けて鏡花がかぶりつく。
予想より美味しかったのか目の色が変わり、休むことなく食べ進めた。
「報告にあったけど、鬼族ってエアリアルにもいたんだな。知らなかったよ」
「俺が生まれる何千年も前に絶滅したらしいからな。魔物であった鏡花が知らなくても当然だ。もしかすると根付いた魔物の一部なら知る者もいるかもしれないが、鏡花はそうじゃなかったんだろ?」
「一匹狼だったからな。弱い奴らは相手してなかったし、他の奴らもうちから距離を置いてたから」
鏡花は食べ終わったハンバーガーの包み紙をゴミ箱に放り投げると、首を縦に振った。
距離を置いていた理由は、鏡花がところ構わず喧嘩を売って生きていたことを原因があると思うが、それはまあいいだろう。
エアリアルでの魔物には大まかに二つの種類がある。
一つは子孫を残し、人間と同じように歴史を紡いできた種族。
そしてもう一つは普通の獣や、自然そのものが変異して魔物となった者たちだ。
個体の強さとしては後者の方が強い代わりに、あまり群れることがない。
鏡花もいつの間にかモンスターとして生まれ、当て所なく彷徨っていたと以前言っていた。
だから過去の歴史なんぞ聞く機会はないし、仕方のないことなのかもしれないが。
「ここまであからさまにエアリアルの影が見えると気のせいとかでは済まないよなあ。レオが創造神に送られてきたってことは、こっちの世界を認知してるってことだし」
「何がしたいんだろうな。わざわざこんな所にダンジョンを作り出して……」
沈黙が流れる。
俺は早々に考えることを諦め、あたりを見渡していると、ふと鏡花の顔が気になった。
鏡花は難しい顔をして考えていたが、俺の視線に気がつくと顔を赤くする。
「──急にどうしたんだって! じっと見るなよ恥ずかしいだろ」
手を前に出して顔を隠す鏡花に言うべきか、黙っておくべきか考えていると、彼女は入り口に駆け寄っていき鍵を閉めた。
早足で俺が座っているソファーに戻ってくると、横に座りゆっくり目を閉じる。
「良いんだな?」
「うちも女だ。好きにやっちゃってくれ!」
無防備な姿を見せる彼女に問いかけると、鏡花は手を後ろに回して唇を尖らせた。
俺は鏡花の頬に手を伸ばすと──べったりとついたソースをティッシュで拭ってあげるのだった。




