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199話 完成したものは


 長引く注文。

 素材を渡して終わりなのかと思ったが違うようで、鬼族と理紗たちとの舌戦が終わることはない。

 そして俺はというと……ハンバーガー片手に食事を初めていた。


『絶対嫌よ! 私は一張羅しか作らないの。コロコロ姿を変える浮気性の服を作れなんてごめんだわ!』


「どんな素材でも使えるって言ったじゃない! 嘘つき!」


「ちょっとりっちゃん落ち着いて。当初の予定通り二着作って貰ってでもいいんじゃない?」


『あら? 話が分かる子もいるわね。口うるさい女と違ってお胸が大きいのは少し気に入らないけど、殊勝な考えだわ。お客様は神様じゃなくってよドレス女』


 次はショッピングモールで買ったご飯を食べてみよう。

 あんまりモンスターの肉を使った料理を消費しすぎると、二人が食べる分がなくなるからな。

 紬が作った料理の方が美味しいがここは我慢だ。


「神様じゃなくても最初に言ったことくらいは守りなさいよ! あと私もおっぱい大きい方です。」


『……私の胸の方がでかいわね』


「それは胸筋でしょ! 一緒にしないで!」


『負けを認めれないことは恥ずかしいことよ? 強く生きなさいね』


【打ち上げは──】


「ちょっと魔法はまずいって! 一回冷静になろ?」


 手を前に突き出した理紗を紬が慌てて止める。

 話が終わらずに戻されることだけは避けたいが、鬼族の言っていることが店のルールなのか、ただの我儘なのか判断つきかねるのだ。

 俺としても店主の主義だと言うのであれば強要させることは忍びなく、さりとて偽装の力を使わずに服を作るのは勿体無く感じるので、どうしたものかと、ない頭を使って良い案を考えなくては。


 ……これもっと食べたいな。残り少ないが全部出そう。


『止めておくれよ。騒がしいったらありゃしない。用を済ませたらとっとと帰んな』


 鬼族が出てきた住居とは逆のこじんまりとした木造の家から一人の老婆が出てきた。

 特徴的な鷲鼻に鋭い目つき。

 黒一色のローブに鈍い紫色の大きな帽子。

 それはスタンピードの時に邪魔に入った奴と同じ風貌をしていた。


「俺の獲物を奪っておいて良くもまあ──」


「ちょっと待ってレオさん! 言いたいことは分かるけど、これ以上面倒なことになったら僕のキャパ超えちゃうから!」


 二人にも邪魔してきた者の特徴は伝えてある。

 紬も気がついたようで、手をワタワタと動かしながらこちらに駆け寄ってきた。

 紬は慌てた様子で、アイテムボックスから取り出したサンドイッチを俺の口に放り込む。

 サンドイッチの具材は味付けして揚げたモンスターの肉を使っているようで、非常に美味だった。

 咀嚼を終えたら新しいサンドイッチが放り込まれ、その隙をついて紬は老婆に話しかける。


「あなたは薬屋さんですか?」


『そうじゃが? やることを終えたのならとっとと去れ。ここは長居するような場所じゃないぞ』


「それが……」


 紬が先程のやりとりを話始める。

 何でも使えると言っていたはずなのに、ミミックの宝石を提示したら趣味じゃないと断られること。

 こっちとしては偽装の力を持つ素材を使って作って貰いたいこと。

 聞き終えた老婆は大きなため息を吐き、こちらに助言を送る。


『それならば作業場の中に投げ込めばいい。一度投げ込まれた素材は無碍に扱うことなどできんよ』


『ちょっと、勝手に変なこと教えないでくれる? 私の美学に傷をつけるつもり?』


『お主のためを思って言っているんじゃよ。これ以上駄々をこねるな』


 老婆は鬼族が出てきた住居を指差すと、理紗と口喧嘩をしていたはずの鬼族から文句が飛ぶ。

 言い返された鬼族は諦めたように肩を落とすと、地面に置いてあったミミックの宝石を拾い上げた。


『今回限りだからね。こんなつまらない仕事……』


「ちょっと、そんなに素材使うの?」


『何? やめてほしいの? なら早く言ってよ。こっちはしたくもない仕事引き受けなくても良くなるから』


 鬼族が横に並んでいたモンスターの素材を、どこからか取り出した紐で縛っていく。

 解体して部位ごとに分けられているものから、解体前の素材まで……それを黙って見ていた理紗がたまらず突っ込みをいれるが鬼族の言葉によっては口を閉じた。


 鬼族が選んだモンスターは解体前で、鳥(氷の属性種)と、豹(火の属性種)と、イタチ(雷の属性種)だった。

 後は解体後のモンスターの皮を全てかっさらっていくと満足そうに頷く。

 いや、まだあるからいいんだが、肉は返してもらえるのだろうか?

 どう考えても服を作るのに肉は必要ないと思うんだが……。

 そんな考えが浮かぶも鬼族は素材を抱えたまま、自身が出てきた巨大な住居に入っていく。

 鬼族が扉代わりの羽をずらした時ちらりと中を確認したが、陽炎を見ているかのようにはっきり見えなかった。


「俺も中に入っていいか? 作ってるところが少し気になる」


『死にたいのなら止めやしないが、そうじゃなかったら止めておきな。この中は時間の流れが違う。お主ら程度の弱い魂じゃ発狂してしまいじゃよ』


「レオさん早まらないで! ほらこれでも食べよう。今日はいくらでも食べていいから!」


 老婆の話を聞いて焦った紬が俺への給餌を始める。

 軽食を取り出して俺の口に放り込み、無くなるとまた新しい食べ物を取り出す。

 俺としてはそんなに興味があったわけじゃないので、必死になって止めようとしている紬を見ると申し訳なくなってきた。

 二人にもう行く気はないと告げたのだがあまり信用されてないようで、俺が動くとピクリと反応される。


 なので身動きせずに大人しく待つことにした。


 幸いにも鬼族が出てくるのにそう時間はかからなかった。

 がさりと入り口の羽が揺れ、鬼族が姿を表す。

 さて、どんな服ができたのか。

 わくわくしながら待っていると……。


『待たせたかしら? 喜びなさい! これが私の力作、ミミちゃんよ!』


 鬼族が背中に隠していた手を前に出すと、依頼の品が右手に握られていた。

 完成したものは、宝箱を模した形をしており、中からベロのようなものが出ている。

 そして宝箱の内側には目のようなものが二つ。

 鬼族が持ってきたものは服でも何でもない、ただのミミックをデフォルメしたぬいぐるみであった。


「……俺が先陣を切るぞ」


「援護は任せて」


「ちょっと最後まで話聞こうよ? その後だったら止めないから」


 戦う理由が出来て喜ぶ俺と、素材を無駄にされてキレる理紗。

 戦いの火蓋は辛うじて理性を保った紬によって、一旦閉じられることとなった。

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