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198話 オネエ鬼族

 

 〈綺麗な角なら追い立てろ。腱切れ、足切れ首落とせ。折れた角なら諦めろ。剣折れ、骨折れ、国落ちる〉


 これはエアリアルの有名な童歌の一つであり、鬼族が人々に残した傷跡の証左だった。

 鬼族は俺が生まれる遥か昔に絶滅しており、その理由は人間が滅びに追いやった……のではなく単純に鬼族の習性からだと言われている。


 鬼族は生まれつき蛮族もかくやの戦闘種族で成長と共に角が無限に伸びていく。

 そしてエルフを遥かに超える長命種なこともあり世界の覇権を握っていた。

 先程の童話にあるように鬼族はしばらく成長すると自分で角を折るらしい。

 これ以上強くならないように、戦いを楽しめるようにと……。


 叙事詩に謳われる数々の英雄の中で、一人たりとも角を折った鬼族を倒したものはなかった。

 故に無敗。計略を用いて倒すことが出来たのは、成長しきっていない未熟な者のみ。

 仲間内でも殺しあい、徐々に数を減らしていった。


 俺が勝てる相手なのだろうか? 

 逸る気持ちが胸の内から溢れ出し、自然と体が前のめりになってしまう。

 期せずして出会った伝説の怪物に興奮していると、背後から伸びる手が……。

 理紗の両手が俺の両頬をぱちんと挟む。


「ちょっと、落ち着きなさい。戦うのは結構だけど、私たちを巻き添えにしてもいいのなら好きにしたらいいわ」


「悪かった。つい……」


 二人の存在が頭の中から消えていた。

 それくらい衝撃的な出来事だったのだが、世話になった二人に迷惑をかけるつもりはない。

 二人に心からの謝罪を送り、念のため身体強化を維持したままで警戒は解かない。

 ダンジョンショップで怪我人が出ていないとはいっても鬼族が相手だと万が一があるかもしれないからだ。

 鬼族は俺の前で止まったかと思うと腰を曲げる。

 折れた角の矢尻のように尖った部分が俺の顔の前でぴたりと静止し、不思議と顔の見えない黒布がふわりと揺れる。

 さっきの行動で怒らせてしまったのか? 理紗たちを避難させるために口を開こうとした時……。


『あっら〜いい男じゃない! こんな仕事をしてなかったら食べちゃいたいくらいよ〜』


 野太い声を無理やり高くしたような、聞き苦しいそんな声で鬼族は喋り始めた。

 理紗と紬がさっと俺の前に入る。

 目の前に立つこいつが暴れたら理紗たちにはどうにもならないだろう。

 そんな俺の不安に知ってか知らでか鬼族は少し下がると弁解を始める。


『ごめんごめん。手を出す気はないわよ。ちょっと気になっただけだから。嫉妬したならごめんなさいねお嬢さんたち。この男は二人のつがい?』


「つがっ! 違います。パーティーメンバーです!」


「そうだよ! 変なこと言わないで!」


 不満を述べる二人は度胸があるなと思う。

 理紗はどうか分からないが紬からすれば喋るモンスターなど初めて出会う存在だろうに。

 理紗が慌てた様子で訂正すると鬼族は再度謝罪し、ぐるりと一回転してみせた。


『あまり時間を浪費したら勿体ないから用件を教えてくれるかしら? 私の役割は仕立て屋。可愛い服や布を作るのが仕事ね』


 似合っているでしょうとこちらに問うてくるが、スカートのことを言っているのか、顔を隠している布のことを言っているのか判断できない。

 理紗たちも引き攣った笑みを浮かべながらコクコクと頷くだけだが、それで満足したのか変なポーズをとりはじめた。

 こちらに投げキッスを送ってきたり、小首を傾げて内股になってみたり、鬼族の精神攻撃はしばらく続き耐えかねた理紗が要求を告げる。


「あの、レオの服を作ってもらいたいんです! 頑丈で普段使いできるものなら有難いんですけど……」


『あらごめんなさい。レオっていうのはその男の子で良いのよね? 素材はあるの?』


 亜空間から取り出した素材を並べていく。

 解体した時に出た皮や、解体前のモンスターを含めてかなりの数になった。

 これらはスタンピードで手に入れたもので、エアリアルで手に入れた素材は一つもない。

 まずはこちらで出現するモンスターの素材を使って、変な疑いがかからぬようにしようと三人で話し合って決めた。


「どうだ、足りるか? 何か必要な素材があるなら言ってくれ」


『ダンジョンで取れる素材なら大抵のものは使えるわよ。素材によっては錬金術に近しい使い方になっちゃうけどね』


 錬金術? よく分からない技術が出てきたが、理紗たちは何か分かるらしい。

 モンスターの素材の他に使えるものといえばこれくらいか。


 黒い布で目も覆っているはずだが、見えているのか籠った魔力を探知したのか鬼族は嫌そうに顔を背ける。


『……また職人泣かせな素材持ってるわね。それ嫌いだわ』


「それってミミックの宝石だよね? 全部使えるんじゃなかったの?」


『使えるは使えるけどそれを使っちゃったら強制的に特性が付与されんのよね〜。その特性は私の美学に反しているの』


 紬の質問に嫌そうに答える鬼族。

 答えないという選択肢はないようで特性の方も説明してくれた。

 ミミックが落とした宝石の素材の特性は偽装。

 姿形を変えることが出来るようになる力で、変装中の戦闘服を求めている俺にとって有益な力だった。


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