196話 騒動が終わり
最後に現れた悟とそっくりな男の魔法を受けてから一週間、俺は悶々とした日々を過ごしていた。
奴の力が移動系のものだったから五体満足で生きているが、あれが攻撃系だとすれば今頃どうなっていただろうか?
多少なりとも戦えるようになったと自負していたが、気を引き締める必要がありそうだ。
そして金閣寺ダンジョンでの出来事は他言無用、理紗たちと鏡花だけの秘密になった。
そのわけは、何やらあのスタンピード、きな臭いことが多々起こっており俺が関係者だと疑われないためだと鏡花は言う。
その代わりギルドの調理室の使用権を延長してもらい、条件も少々変更してもらえたので俺としては大満足だ。
今までの契約はギルドに連絡をしてから一ヶ月間使用可能になり、調理室を使わない日でも期限が切れるようになっていた。
なので紬の予定が空くまで予約を入れられず、モンスターの肉を調理することが出来なかった。
今度の予約方法はそれに加えて三ヶ月分予約期間が増え、なおかつ行った日だけが消費される仕組みに変わっており、これで気軽に利用出来ることとなる。
エアリアルで回収した魔物の肉はひとまずお預け──毒持ちなのかどうか不安なので、毒を検知する魔道具が手に入るまでは保管(ギルドには毒検知の魔道具があるが、使った履歴が残るようになっているため、念のため使わない)し、スタンピードの肉を使用する。
モンスターの肉の解体も問題で業者に頼むことも考えたのだが、丸ごと解体した経験があるところなんてほとんどない。
下手をすれば食材をちょろまかされる可能性もあるとくれば、あまり頼ろうとは思えなかった。
料理が出来る紬も解体には不慣れで、理紗に関して言えば包丁もまともに扱えないと言う。
必然的に俺が解体することになるのだが、量も量なので当面の食糧分解体してゆっくりと考えることになった。
属性種のモンスターを三匹ほど解体して料理を作る。
紬のアイテムボックスの容量ギリギリまで保管すると、後は俺の亜空間の中に保存した。
理紗と紬、二人の予備の着替えも俺の亜空間に収納すればもう少し入ったのだが、断固拒否の構えのため断念。
だがこれでしばらく二人は魔力持ちのモンスターの肉を朝昼晩食べることが出来るようになり、魔力量の強化も加速していくことだろう。
新宿ダンジョンも無差別爆破事件の調査はすぐに終了し再開されることとなった。
犯人が見つからず、爆破原因も不明なのだがスタンピードが多発している今、あまり長く封鎖しておくことが出来ないようだ。
その他にもいくつか難しそうなことを教えてくれたのだが、食事中の話だったためあまり覚えていない。
ハンバーグすごい美味しかった。
休みなく潜り続けて累計三十個の宝石を入手することに成功し、踏破階層も四十階層まで伸ばすことが出来た。
そして今日晴れて一着仕立てて貰うことに……。
「じゃあ配信はここまで。ダンジョンカメラ戻すわよ」
【殺戮舞踏会楽しかった】
【勇者の配信設定いじってくれてありがとう。見やすかった】
【炎姫も身体強化習得おめでと】
二人が挨拶を終えるとダンジョンカメラを回収して紬のアイテムボックスに収納する。
俺の方も亜空間に仕舞い終わると、代わりに熱々のステーキを取り出した。
それを見た二人が嫌そうな顔を見せる。
「……またお肉か。贅沢な悩みなんだけどこれだけ続くと辛いわね」
「太らないのが唯一の救いだね。お腹いっぱい野菜が食べたい」
俺の方は山盛りのご飯と巨大なステーキ。
後は三種類の小鉢を用意している。
そして二人はというと、小ぶりなステーキだけだった。
これは意地悪で少なくしているのではなく、余分なものを食べてしまうと、モンスターの肉が食べられなくなってしまうらしい。
俺にとって美味しいおかずとご飯は相乗効果があり、二つを用意することで今まで以上に食が進む。
理紗の理論はよく分からないが、最初辛そうに完食していたところを見ると嘘を言っているようには見えなかった。
「そういえば今日行く先はドワーフのところじゃないんだろ?」
「普段使い出来るようなものが欲しいから革鎧は次の機会に。それに変装中に使うものだからあんまり着脱する手間はかけたくないし」
「せめて悪目立ちしない柄にしてもらおうね」
理紗と紬が食べ終わると黒色の扉の横についている水晶のベルに宝石を全て流し込む。
そうして発生した魔法陣に三人は足を踏み入れるのだった。