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191話 横槍

 

 拷問卿と戦っていた時と比べて、俺は強くもなり、弱くもなったのだろう。

 どこか失望の念を漂わせた拷問卿の言葉で、俺は反省する。

 あの頃は使えるものは全て使って、今よりもっとがむしゃらに戦えていた記憶がある。

 聖剣という摩耗することのない武器を手に入れ、好き勝手戦っている俺はダンジョン武具の性能頼りに戦っている地球の子供と、どう違うのだろうか?


「一つ聞いておく。お前の他にダンジョンの外に出てるモンスターはいないな?」


『お前が全て仕留めたんじゃろうが。何を言っておる?』


「それなら大丈夫か……」


 念のため数キロ圏内にモンスターが存在していないことは、聖剣を使って確認している。

 探索者を乗せた車が離れていく音も聞いたし、周辺に人の気配もない。


 少し離れた位置に移動して亜空間から一本の剣を取り出すと、拷問卿は怒りに満ちた声を上げる。


『随分と馬鹿にしてくれるな。そんな棒切れ取り出して何をするつもりだ?』


「もう一度牙を研ぎ直すのさ。俺の戦力が低下して困ることはないだろう? 殺せるのならそのまま殺せばいいからな」


 亜空間から取り出した剣は中層のスケルトンが落としたドロップ武器で、全体的に錆び付いている。

 これは売値がつかずに亜空間の中で放置されていたもので、剣としての役割を果たせるのかも怪しい。

 だが今はこんな武器が必要だった。


 亜空間から引き出す時に少し出てくるのが遅かったのは、聖剣の不満の表れだろうな。

 心の中で一度謝罪して、錆剣に魔力を通す。

 つっかえるような感覚を無視して魔力を巡らせる。

 聖剣がどれほど扱いやすかったのか、どれだけ武器の恩恵を得ていたのかを再確認した。


「……酷いもんだな」


『──それが今際の言葉か?』


「ただの愚痴だよ!」


 一足飛びでこちらに向かってきた拷問卿の大鎌を受け止め……ずにいなす。

 全力で魔力を込めていなかったとはいえ、魔力強化していた聖剣と打ち合える武器を相手にできるほど頑丈ではなかった。


 大鎌を振り切った体勢の拷問卿に近づき、無防備な脇腹目掛けて斬りつけた。

 血飛沫が舞う。

 最大限に魔力を流せばなんとか戦えそうだ。

 剣の調子を確かめつつもう一度攻めいるが、追い討ちを防ぐように拷問卿ごと巻き込むようにして魔法が降り注いだ。


 身体強化を使った上で受けたのならば、大した怪我を負うことはないだろう。

 だが敢えて全ての魔法を回避していった。

 それを見た拷問卿は舌打ちを残して召喚した者の中に逃げていく。


 召喚した奴らの中に咲がいるということは、こいつらは死神と関係のある者──死神に破れて感情を奪われた者の可能性が高い。


「そいつらを殺したらこちらに不都合がありそうだな」


『試してみるか?』


 煽るように言う拷問卿の言葉を無視して考える。

 わざわざ最初に俺の知り合いである咲を盾にしたと言うことは、そういう意味なのだろう。

 召喚をした奴らを殺したら繋がりある人間に反動がくる? 

 分からないが、別に俺としてはどうでも……いや、咲は獲物を譲ってくれたから恩はあるか。

 まあ聖剣を使わずに手加減して戦っている俺がいらぬ被害を出すのもな。


「それじゃあ頑張ってみるか」


『……狂っておるな。今どんな顔をしてるか自覚しているか?』


 その言葉に剣を動かして顔を確認する。

 辛うじて錆びていない部分に映った自分の顔は、無意識のうちに笑っていた。


 戦うことは嫌いではないが、殺し合いの中で自分の感情を制御出来ないほど未熟ではない……つもりだった。

 それなのにこの体たらく。頬を叩いて叱りつけると身体強化の強化値を高めてゆく。

 体を巡る魔力を最大にし、腕の長さ程度の距離まで魔力を流して固定する。

 体外の魔力は他者の魔力を弱体化させ、魔法威力を減衰させる。

 高揚する精神を鎮めながら、剣を一振り。


「別に待っててくれなくてもよかったんだぞ?」


『お前のためではない。奴の思惑通りにことが運ぶのが癪なだけよ』


 奴? 少し気になるが問答は終わりとばかりに魔法による攻撃が再開された。

 拷問卿は細かく術者を移動させながら俺を狙う。


 俺は拷問卿と切り結びつつも攻撃は受けぬように調整していった。

 ひとつ、またひとつと拷問卿の体に傷が増えていく。


『こんなにも、差が……。お前、今まで何をしてきた? 私が……私? 僕が、わしが、何度生まれ変わったと……』


「何って、戦士として死のうとしてただけだ。それ以外はない」


 半狂乱の拷問卿は血涙を流しながらこちらに食い下がるも、捉えられない。

 元より力で劣っているのだ。

 魔法によって俺の行動を阻害し、大鎌を叩き込むことができるのであれば、勝機はあったのだろうが、魔法を当てることすら叶わなかった。


 拷問卿の胴体に蹴りを叩き込み、膝をつかせる。

 そして喉元を素早く切り裂いた。


「……終わりだな」


 さっきから傷が回復してないことは分かっている。

 拷問卿は何処か安心した様子で頬を緩めると。


『おい勇者。神は平等だが優しくはない』


「何が言いたい?」


『それは……』


 巨大な魔力の発生と共に、一筋の閃光が奔った。

 それは一直線に拷問卿の顔を貫き、破裂する。

 辺りに散らばる拷問卿の肉塊。

 不思議とこちらには爆風すら届かなかった。


 慌てて聖剣を呼び出すと、魔力の発生源──金閣寺ダンジョンに目を向ける。

 そこには新宿ダンジョンで出会った案内人が、冷たい表情を浮かべて立っていた。


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