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189話 殺す理由

 

 まずは力試しに聖剣を横薙ぎに振るう。

 死神は体を回しながら大鎌を振るい応戦してくるが、俺の聖剣は大鎌を半ばから断つことに成功する。

 俺としてはそのまま切り裂くつもりだったのだが、死神が後ろに飛び退ったことによりそれ以上の傷は与えられない。

 死神は大鎌の状態を確認すると、どこからか魔石を取り出して自分の前に放り投げる。

 宙に浮いた魔石を大鎌で切り裂くと、瞬く間に修復してしまった。


「……悪くはないが」


『クソっ! 何故余がお前の相手なんぞ……』


 死神の身のこなしは武器に振り回される獣とは違い、研鑽された技術が感じられるものだった。

 だが普通のモンスターと変わらず、身体強化を使いこなすことはできないようだ。

 死神の体は絶えず魔力が流れているが、基本的に魔力の流れは一定で澱みがない。

 それだけでも普通の人間であれば圧倒出来るであろうが、身体強化を十全に使える相手をするならば力不足であった。


 膂力も技術もこちらが上。

 仮に力を同程度に落としたとしても負けることはないだろう。


 先程使っていた魔法だけが不確定要素だが、死神は一向に使う気配はなかった。

 攻撃としては使えないのか、ここぞという場面までとっているのか分からないが、これでは不完全燃焼で終わりそうだ。


『おい、貴様! 意思疎通がとれる余の姿を見て何も思わんのか! 言葉が通じれば争う必要もないであろう?』


「いや、ないな。お前は殺す」


『何故じゃ! あの女がそんなに大切か? それならば他の者に変更しても構わん。貴様は何故余を殺したがる?』


 死神は自分はお前に何の迷惑をかけたわけではないと続ける。

 このスタンピードもあまり被害が出ていないわけだし、死神の言い分も一理あるとは思う。

 所詮この世は弱肉強食。

 それも自然な摂理であろうが……。


「俺がお前を殺す理由か。強いて言えば何となくかな?」


 俺の返答を聞いた死神は、ワナワナと震えていた。

 第三者が聞いたらなんとも適当な理由だろうと思われるだろうが、これが嘘偽りの無い答えなのだ。

 その感覚は俺の一番頼りにするところであり、幾度も俺の命を救ってくれた。


 だが死神は俺の言い分を認められないのであろう。

 柄を地面に叩きつけ、声を荒らげる。


『それが理由か! それなのに何故貴様だけここ……ぐうっ!』


 死神は大鎌から手を離し、喉に手を当てて苦しみ始めた。

 毒を盛られたような反応に戸惑うも、死神は天を向き咆哮を上げる。

 死神は息を切らしながら、こちらを鋭い目で睥睨する。

 そこには先程までには見られなかった、深い憎しみの念が込められていた。

 殺す前に勘違いされてたら困ると俺は説明を続ける。


「言葉足らずだったから説明しておくが、俺はお前がモンスターだから殺すことに決めたんではないぞ?」


 意思疎通か取れるのなら、友好の道も探す可能性もある。

 そんなこと俺にも分かっている。

 ……分かった上で殺すと決めているんだ。


『余の何が気に入らんのだ?』


「俺は他人の嘘を見抜くのはどうにも苦手でな? 騙されてばかりの人生だったが、たまに相手の嘘が分かる時があるんだ。今みたいにな……」


『何が言いたい?』


「お前、性根が腐ってるだろ。救いようが無いほどに」


『腐ってる……か』


 死神は俺の言葉を聞くと壊れたように笑い出す。

 その独特な笑い声に、エアリアルで殺した一匹の魔物の姿が重なる。


『愉快、愉快。こうまでしても願い叶わんとはのう、勇者?』


「……拷問卿」


『キヒっ……』


 辺境で暴れていた魔王軍の幹部であった魔物の呼び名。

 死神はその言葉にピクリと反応し、三日月のように口端を吊り上げた。





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