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182話 命を賭した拘束

 

 背後から聞こえる足音に咲はびくりと肩を震わせる。

 振り返るとあの死神がどこか警戒した様子で、低い唸り声を漏らしていた。

 死神は周囲を見渡しながら大鎌を構え直したかと思えば、高らかに咆哮を上げる。


 咲はこの状況で何を呑気に止まっているんだと、自分を叱咤しながら前方の石灯籠に向かって駆け出した。

 この石灯篭は人工魔道具で、結界石が封じられている。

 水晶を取り出すために指の先を噛み切り、石灯籠に押しつけると、外側が崩れ落ちていき、七色に輝く結界石があらわになる。


 咲は震える手で宝石を取ると、そのまま地面に叩きつけた。

 砕けた宝石から柔らかな光が漏れ出す。


 ……これで結界を張ることが出来た。

 咲は光の鎖に拘束されている死神に向かって近づいていき、胸元に手を乗せた。


「貴方には大人しくしてもらいます」


 咲の魔法によって死神の首から下が凍りつく。

 結界石の力により、自分の魔法が強化され、相手の力を阻害している。

 格下にいいようにされて苛立っているのか、死神は憎悪のこもった目で咲を睨みつけるだけで、さっきのように力ずくで拘束を解くことは出来ないようだ。


「誰か! 意識のある人はいませんか!」


 予定通り拘束することが成功したことにほっと胸を撫で下ろし、横たわる人たちに声をかける。



 彼等は五体満足、どころか体に血痕一つ見当たらなかった。

 ダンジョン前には起爆前の魔石爆弾が置かれてあり、少なくとも彼等はスタンピードを止めようとしていたことは間違いない。


 他のモンスターが放出されているのなら、彼らは今頃食い散らかされていただろう。

 咲は死神に向き直り、問いかける。


「……貴方は何故私を狙ったんですか?」


 死神は咲の質問に答えることはない……が口端を吊り上げて笑った。

 全身に鳥肌が駆け巡る。

 相対するモンスターから感じられる、悪意。

 怖気から一歩下がろうとした体を必死に食い止めて、魔法を維持を続ける。


 彼女の魔力という名の蝋燭に火を灯して、じっと時を待った。

 咲が破壊した結界石の光の柱を見たギルド関係者が、応援に来てくれることを信じて。




 数十分後、咲は玉のような汗を流しながら意識を必死で繋ぎ止めていた。

 五分ほど前から急激な魔力消費による吐き気と、気怠さが体を襲っている。

 魔力の切れ目が命の切れ目。

 刻一刻と迫る状況に咲は諦念のようなものを抱いていた。

 援軍が来る気配はない。

 ギルドの人間が一人も現れないのは、他に手を取られているか、見捨てられたかだ。

 変な話ではない。

 死神は一般市民に手を出そうとはせず、妙に咲に固執していた。

 悟が倒されたのも、攻撃されたから排除されただけで自発的に狙われた訳ではない。

 死人がほとんど出てないのであれば、避難を優先して様子を見ようという考えは咲にも理解できる。

 スタンピードで外に出たモンスターは、二、三日もしたら死んでしまうのだから……。


「あの人は本当に馬鹿でした。金遣いが荒いふりをして、死神の情報に大金を注ぎ込むのを止めてくれないんです」


 ここにはいない愛しい恩人へ愚痴をこぼす。

 咲の胸のうちに残る、確かな感情がなくならないうちに、思いの丈を吐き出していく。


「パチンコなんか嘘。あの人がそんなものに大金を使えるほど度胸がないって本当は分かってました。無駄遣いには変わりないですから、毎度注意してたんですけどね」


 空に向かって苦い笑みを浮かべ、一筋の涙を落とす。

 ……終わりが近い。

 魔力枯渇間近で、ガクガクと震える膝を叩きながら、せめてもの抵抗として死神に睨む。


「私を殺した後、さっき戦った男に手を出してみなさい。化けて出てやりますからね」


 ゆっくりと手が離れようとしたその時、聞き覚えのある叫び声が聞こえた。

 その声はどんどん近づいてきて……。


「させるか馬鹿野郎! 誰の女に手出してんだ!」


 飛び込んできた悟が、折れて半分になった槍の先を死神の首に叩き込んだ。

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