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18話 ホテルで一泊

 


 風呂に苦戦すること三十分。体を洗うだけなのにこんなにも時間がかかってしまった。いつもなら水を作り出す魔道具と聖剣ネストの力で手早く済ますのだが、勝手が分からない道具を使うのは神経をすり減らす。


 風呂から上がると理紗が携帯と呼ばれる道具と俺の探索資格を持ちながら作業をしていた。

 何やら明日のダンジョン探索をするために、資格証の情報を登録する必要がある、とのことだったので風呂に入る前に渡したのだが、今までずっと作業していたようだ。


「これでDネットの登録は終わり……後は明日借りられるダンジョンカメラと紐付けしたら大丈夫かな」


「終わったのか?」


「うん。とりあえず今できるところまでは終わったよ。続きは明日、ダンジョンカメラをレンタルしてから……」


 理紗が振り向いた状態で固まっている。何か登録に問題でもあったのだろうか?


「もしかして登録の費用か? それなら明日の探索から引いてくれ」


 理紗の頭がゆっくりと動き出す。上から下まで俺の姿を確認すると……。


「──何でタオル一枚巻いてるだけなのよ! 裸で出てくるんじゃない!」


「裸じゃないぞ? ほら、しっかり下は隠して……」


「私の中では裸なの! 早く寝巻きに着替えなさい!」


 理紗は宿に備え付けの寝巻きを投げ渡すと、俺が着替え終わるまでこちらを向くことはなかった。


 ……失念していた。あちらでは冒険者は男女問わず裸で水浴びしていることも多く、暑かったら上半身裸で過ごすことも少なくない。


 しかし、室内の温度を調整できるような高度な道具があるこの世界では、裸で過ごす習慣がない可能性がある。


「すまんな。気が利かなかった」


「いいの。次から気をつけて」


 理紗は自分の家があるようだし、同じ宿に泊まることなんて今後ないと思うが、理紗と行動を共にする間は注意しよう。


 謝罪をし終わると理紗が聞きにくそうに質問してくる。


「……あなたのその傷、もしかして私が?」


「傷? ああ体の傷か。これは魔物から受けた傷は一つもないぞ。勇者の性質で魔物からの傷は綺麗さっぱり完治するからな」


 俺の言葉を聞くと理紗はぱちくりと目を見開き驚いている。よく見たら分かるが体についた傷跡は切り傷のようなものが多い。これは勇者の力を狙った人間からの不意打ちによるものが殆どで、傷の八割が勇者になって一年以内についたものだ。


「そう……嫌なこと聞いてごめんなさい」


「別に構わない。敵の攻撃を避けるのが下手くそだと思われるよりかは百倍ましだ」



 俺の言葉に理紗はクスリと笑いこちらに資格証を返してくれる。俺はそれを受け取って亜空間に送ると理紗の向かい側に腰を下ろした。


「一応その資格証の登録は済ませたから明日からでも探索出来るけど……どうする?」


「行けるのなら早いうちに行っておきたい。借金は早めに返したいんだ」


 利息が膨れ上がって首が回らなくなることはさけたい。理紗は俺の返答を受けると携帯を触り出した。


「大丈夫。明日は紬も来れるって。だから明日は私たちが常識的な探索の仕方を教えてあげる」


「助かる」


 やけに常識的という部分に力がこもっていたが、何も知らない俺からすれば貴重な情報だ。お礼を言うと理紗から忠告を受ける。


「さっきの探索証、絶対に無くさないでね。借りた私が言うのもなんだけど他の人に渡すのも駄目よ」


 理紗が言うには探索証は手形のような役割があるらしい。俺の探索証には今は何も入っていないが、今後ダンジョンに潜る時の配信の報酬や、ドロップ品の売却費用を貯めておけるようになっている。


 話を終え、何かと葛藤していた理紗が勢いよく立ち上がる。どうやら風呂に入るようだ。

 俺は宿にあったテレビなるものに目を奪われていると、風呂場の扉から理紗が顔だけ出して告げる。


「……絶対に覗かないでよ。もし覗いたら末代まで祟るから」


「理紗が祟らなくとも多分俺は大したところには行けないぞ」


 強い力で風呂場のドアが閉められる。またいらぬことを言ってしまったのかと少し後悔したが、しばらくするとお湯の流れる音が聞こえてきた。

 風呂で機嫌を戻してもらうことを祈りつつ、テレビの画面の中で繰り広げられている激しい戦いに意識を戻す。


お読みいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 末代は子孫の最後の代ではなく死んだ後の世という意味です つまり末代まで祟るっていうの死してなお祟るって意味で子孫まで祟るって意味じゃないですよ
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