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179話 人工魔道具の性能

 

 目的地は四階にあるようで、階段を使って上がっていく。

 ちらりと三階を確認すると、武器や防具が並んでいるのが見えた。

 以前聞いた話では、未だ人間は下層のドロップ武具に勝るレベルのものを作ることが出来ていないらしく、高ランク探索者は市販の武器を使って戦うことはあまりない。

 鏡花も市販のものを使ってすぐ壊すくらいなら、素手で戦った方が良いと言っていたし、あまり信用されてないのだろう。


 身体強化を使えぬ探索者が、比較的重い金属鎧を装着して階層を移動するのはきついものがあるだろうし、動きの遅い前衛など格好の的だ。

 それに加えて強度も劣るのならわざわざ金属鎧を使うメリットは無いに等しい……。


「ちょっと急に立ち止まらないでよ。どうしたの?」


 四階への階段前で立ち止まった俺に向かって理紗が声をかける。

 返答する余裕のない俺は、斜め向かいの店にとある商品に釘付けになっていた。

 紬が俺の前に立ち、不思議そうに俺の顔を見て同じ方向に目を向けると、何かを悟ったようにため息を漏らした。


「理紗、紬、ちょっと時間いいか?」


「別にいいけどレオのお眼鏡にかなう武器なんてこんな場所にはないわよ」


「……興味があることが増えるのはきっといいことだ。うん。多分そう」


 紬が何か独り言をつぶやいているが、理紗から言葉をもらい、俺はお目当ての品──甲冑に向かって駆け出した。


「分かってると思うけど、それ戦闘に使えるものではないわよ」


 理紗がガラス越しに食いつくように見つめる俺に向かって声をかける。

 紬もそれに同意するが、その程度のデメリットで俺の興味が薄れることはなかった。


「サムライ戦隊武者レンジャーを見てから欲しかったんだ。値段は五百万か……買えるな。よし、店長!」


「ちょっと待って! 本当に買うの? 買っても置き物になるだけよ」


 理紗がすぐ壊して駄目にするんじゃないかと心配するが、安心して欲しい。

 魔力を纏わせればこいつも立派な防具に早変わりだ。

 問題は、普段使っている革鎧の方が圧倒的に最大強化値が高いのと、生身の身体強化の方が防御力が高いくらいだが、その程度こいつの格好良さと比べるとあってないような問題だ。


 支払い用のカードには後七百万ほど残っており、これを買ってもお釣りがくるとなれば、買わない理由はないだろう。


 紬と理紗は顔を見合わせて何か目配せをしている。

 お金の無駄遣いなどと注意を受けると思いきや、比較的あっさり二人は購入を認めてくれた。

 俺の金ではあるが、二人には俺が変なものを買わされないように助言をしてくれるようにお願いしている。

 二人の反応からすればこれも変なもの扱いにはなるのだろうが……。


「良いも悪いも買ってから後悔すべし。それは数多のゲームをやってきた私の教訓よ」


 理紗の言葉に紬も頷く。

 この買い物が失敗だったとしても、いい経験になるだろうと、どこか保護者目線なのが気がかりだったがまあいいだろう。

 あまり人が来ないのか寝ぼけ眼で歩いてきた店主に注文すると、目を大きく開いて驚いていた。


 甲冑は何種類か置かれてあり、俺は黒がベースの甲冑を注文した。

 兜には金色の細工が施されていて、美術品のような美しさがある。


 購入した甲冑と、店主から渡された紙を亜空間に仕舞い込んだら今度こそ四階に向かった。


 案内された魔道具屋の商品を見ていく。

 魔石を使うと風を送ることが出来る魔道具や、少し汚れた水を綺麗にすることが出来る魔道具。

 説明される度に首を傾げつつも黙って見ていくが、我慢しきれずにたまらず声をかけた。


「なあ、ここって本当に魔道具屋か?」


「そうだけど? 何か気になることでもあった?」


「……いや、玩具みたいだなって」


 俺の言葉が聞こえたのか、店主が冷やかしなら帰ってくれと声を上げる。

 失言だったと謝罪して、一旦外に出ると理紗が複雑な表情を浮かべて説明を始めた。


 比較的高性能の魔道具を扱う魔道具屋。

 それが俺が入った店の評価だった。

 人工的な魔道具は、ダンジョン産のものと比べて性能が落ちると聞いたことがあるが、これほどだとは思わなかった。

 今のところ魔道具の性能は、企業が持つ開発資金に比例するらしく、高級なダンジョン産の魔道具を解析して研究を進めている企業以外は、かなり厳しい状況にあるようだ。


 回復薬に関してのみギルドがノウハウを公開しているため、ハズレを引くことはないが、回復魔法が使える俺たちのパーティーは必要としない。

 最悪、紬がいなくても回復効果のある魔法の絨毯があることだし、当分魔道具屋にはお世話になることはないだろう。



 しばらく散策を続け、トイレ休憩を挟むことになった。

 それが終わればお勧めのご飯屋を紹介してくれるので、上機嫌になりながら二人を待つ。

 俺はトイレに行く必要もなかったので、外で待っている。


「ちょっとすいません。今よろしいですか?」


「どうしたんだ?」


 理紗たちがトイレに入ってすぐ、年配の女性が声をかけてくる。

 トイレ前には俺しかおらず、人違いで話しかけたわけではなさそうだ。

 女性は男子トイレに息子が入ったっきり戻ってこないと言ってきた。

 それで男である俺に確認してきてほしいんだと……。


 俺も暇だったので、女性の頼みを引き受けるとトイレに入っていく。


「息子は熊のぬいぐるみを持っていきました。ありがとうございます。本当にごめんなさい」


「気にするな。すぐ戻る」


 女性の謝罪に手をあげて返し、トイレの中を確認するがトイレの個室の扉は開かれており、人がいる気配はない。

 念のため個室の中も確認していくが、子供の姿は見つけることが出来ない。

 だが一番奥の個室に、熊の人形が無造作に置かれてあった。

 ……子供が忘れていったのだろうか?

 女性に伝えるために熊のぬいぐるみを手に取ると、視界が一瞬にして変化した。


 上を見上げると太陽から日差しが差し込んでおり、時代を感じさせる街並みが広がっている。

 そしてひっきりなしに鳴り響くサイレン音。


「何処だここは?」


 大きな建物のトイレってすごい。


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[一言] 異世界勇者様は厨二病を患っていたらしい
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