177話 合流
理紗も後十分ほどで到着するらしく、電話でタクシー会社に連絡を入れる。
てっきり電車を使って向かうのかと思ったが、違うようだ。
タクシーは電車よりも金がかかる、と酔っ払いが話していたのを聞いたことがある。
なので少し抵抗があるが、金持ちの二人にはあまり関係ないのだろう。
理紗や紬は器量が良く、外で歩いていると結構な頻度で話かけられるほど人気がある。
ダンジョン配信の時の投げ銭代は個人のものにしているため、二人は俺の想像以上に収入があるのかもしれない。
流石だなと誉めれば、乗客の安全のためだから、といったよく分からない言葉が返ってきた。
詳しく聞こうとするが、紬は慌てた様子で口を開く。
「それより! 私の今日の格好はどう? 変じゃない?」
紬は手を広げてこちらに質問する。
紬の今日の服装は、白地のTシャツに丈の短いスカートだ。
戦闘服ならまだしも、普段着にお金をかけるような生き方なんてしたことがない俺にお洒落なんぞ分かるはずもないので、買ったら高そうだなと感想を述べたら嬉しくなさそうな顔をされた。
これ以上意見を求められると辛いので話題を変えるために彼女の髪型に触れた。
紬の髪型はいつもは肩ほどの金髪なのに、この短期間で黒髪の長髪になっている。
理由を聞くと俺に合わして変装しているのだそうだ。
ふわりとカールしている、いつもの毛質と比べて、さらりと真っ直ぐ伸びている今の髪型は新鮮だった。
しばらく話しながら時間を潰していると、理紗が到着する。
理沙も紬と同じように黒髪になっており、レンズの大きな眼鏡をかけている。
かつらで変装している紬とは違い、理紗は魔道具で髪を染めているらしく、パッと見ただけだと気がつかれることはないだろうと思えるほどの変わりようだった。
紬よりも長い髪は後ろで編み込まれており、それがまた似合っている。
さっきの紬との会話でまた一つ成長した俺は、先んじて言葉をかけることにした。
「今日は髪結んでるんだな。似合ってるぞ」
そんな言葉をかけられるとは思ってもいなかったのか、理紗はポカンと口を開けて固まると、恥ずかしそうに身をよじる。
「……ありがと」
俺もやれば出来るんだ。
紬には微妙な顔をさせてしまったが、理紗は嬉しそうにはにかんでいる。
女と話すより、森に住む猿の方が話が合うんじゃないか、などと言ってきた傭兵団の奴らも考えを改めるに違いない。
相手が求める言葉を送り、満足させる。
まさにプロフェッショナルの仕事と言えよう。
腕を組み頷く俺に、理紗は恐る恐る聞く。
「……えっと、服装はどう?」
…………これで終わりではなかったようだ。
視力強化を用いて理紗の服を凝視する。
さっきはここで失敗してまった。
同じ失敗は許されない。
俺が見ていく中、理紗は引き攣った顔で後ろに下がろうとするが、足を止めて目を閉じる。
そしてゆっくりと一回転してみせた。
上はレースが施された黒のシャツで、見るからに高そうに見えた。
だがその言葉が喜ばれないのは俺も理解している。
目線を少し落とす。
ズボンは見覚えのある生地の短パンを着用しており、靴には汚れ一つない。
短パンから伸びる生足は、戦士としては頼りないが、細く健康的に伸びた足は彼女の魅力の一つとして言えるのだろう。
……ここで勝負を決めるぞ。
あいつらがここにいれば、お前にゃ無理だよと、馬鹿にされる気もするが頼らずにはいられない。
「そのズボン良く似合ってるな」
「褒めてくれてありがとう。でも無理しなくてもいいのよ」
理紗はこう言ってくれるが、女と買い物に行くときには、まずその日の服装を褒めろとテレビで言っていたのを聞いた覚えがある。
その時は面倒くさいな、としか思わなかったが、嬉しそうに喜ぶ姿を見ると悪くはなかった。
ここで話をやめていれば、だが……。
「俺にくれたズボンも同じ生地だろ? 理紗は途中で切って使っているのか?」
その言葉ですんと無表情に変わった理紗は、ぎゅっと短パンを握りこむ。
あれだけ楽しげな雰囲気があったのに、今は時間が止まっていると感じるほどの静寂が流れる。
ファッションの違いを説明する紬、それを聞きながら理紗に謝罪する俺、ぬか喜びした私が悪かったのと自嘲する理紗。
そのやりとりはタクシーが到着するまで続くこととなった。
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