176話 空腹を耐えるが戦士
翌朝、予定時刻より早めに目が覚めた俺は、準備をして部屋を出る。
ダンジョンが封鎖されたのが原因か、受付前には殆ど人がおらず閑散としていた。
受付の人数もいつもより少なく、どこか忙しそうにしている。
受付にいた如月が血走った目で、今日だけは大人しくしてくださいと懇願してくる。
如月の横に立つ女もこちらにカクカクと首を縦に振ってくるが、彼女たちは俺がまた騒ぎを起こしてしまうと勘違いしているのだろう。
だから俺も安心させるために、今日は食べ物屋を教えてもらうだけで訓練の予定はない、と伝えると如月は何故か懐から携帯を取り出して、今の言葉録音しましたからねと脅してくる。
……そこまで俺の行動が不安なのだろうか。
如月は昨日の朝、俺がダンジョンに潜る前から今までずっと受付をしており、疲れているのかもしれないと考えることにした。
要注意人物の扱いをされていることはないはずだ……多分。
待ち合わせはスタンピードが発生した日、祭りを開いていた公園だ。
今は祭りも終わり、犬の散歩をしている老人くらいしか見えない。
入り口付近に置いてある小綺麗な椅子に座ったのだが、空腹が気になって仕方なかった。
エアリアルにいた頃には空腹が常の生活をしていたのに、多少贅沢な生活が続いたくらいでこうなるとは……。
団長が前にいたらどやされることだろう。
戦士はどんな環境におかれても戦える精神を育まなくてはいけない。
これも鍛錬だと自分に言い聞かせて理紗たちを待つことにした。
次に到着したのは紬だった。
普段は肩ほどまでの長さの茶髪の彼女だが、今日は黒髪の長髪になっている。
「お待たせ! 早いね。予定時間の一時間前に来たのに……ってそのゴミ何? 今からご飯食べに行くのにこんなに食べちゃったの?」
「いや、これは……落ちてた」
「本当? じゃあ何で目を逸らすのかな? ……まあレオさんはそれでも食べれるだろうから問題ないんだけど、ゴミは放置しないでね」
ゴミ箱はあっちにあるからと、紬が指差す。
俺はゴミを回収……する振りをしながら身体強化を使って、食べかけのハンバーガーを口に放り込む。
高速で咀嚼して飲み込むと、ゴミ箱に駆け出した。
俺の一連の動作に紬は気がついていない。
これで俺は、名もしれぬ誰かが捨てたゴミを処分するいい奴に早変わりだ。
安心して紬の元に戻っていくと彼女がこちらに歩み寄る。
俺の顔を見た彼女はため息を吐き、アイテムボックスからティッシュを取り出した。
「口元にべったりソースついてるよ。別に食べても誰も怒らないからね」
彼女が口元を拭うのを目を閉じて受け入れる。
脳裏に団長の顔が浮かぶ。
戦士はどんな環境におかれても戦える精神を育まなくてはいけないのだ。
……だから明日からちゃんと守れるように頑張ろうと思う。
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