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175話 ダンジョン封鎖

 

 新宿ダンジョン再開日、薄暗い廃倉庫の中で一人の男女が話しをしていた。

 男は紫煙をくゆらせながら、眉を寄せる。


「……上手く事が運んでもおめえさんは消される可能性が高い。その上で言ってんだよな?」


「覚悟の上です」


 男の言葉に女はきっぱりと肯定すると、男に向かって札束を差し出す。

 男はそんな女の行動に舌打ちを漏らした。


「なんだそれは? 金にゃあ困ってねえぞ」


「今までお世話になりましたから、これくらいはさせてください。あの方に支払う足しにしてもらえれば……」


「余計なお世話だって言ってんだ。どうせならそれで最期に美味い物でも腹一杯食べな」


 男の言葉に女は小さく首を振り、押しつけるように札束を手渡した。

 男は空いた手で煙草を握りつぶすと同時に、札束はもう男の手の中から消えており、それを見届けた女はほっとしたような表情をみせる。


 少しの沈黙。女は難しい顔で男に問いかける。


「私が言うのもなんですが、こんなこと、貴方はいつまで続けるおつもりですか?」


「俺が満足するまでだ」


「──自分の人生を犠牲にしてまで……すいません」


 女は言葉を返そうとするが、そのまま飲み込んだ。

 自分がやろうとしていることを棚に上げて、言うべきではないと悟ったからだ。

 拳を強く握り黙り込む女を見て、男は苦笑いを浮かべる。


「何か勘違いしてるようだが、俺がやってることは償いじゃない。ただの恩返しさ」


「……そういうことにしておきます」


 女は口を尖らせて呟くと、背を向けて出口の方へ歩き始める。


「幸運を祈る」


「マスター、貴方もどうかお元気で……」


 女は恩人である男の言葉に、涙を堪えることしか出来なかった。



 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲



 日を跨ぎ、携帯の着信によって目を覚ます。

 壁掛け時計を見ると、ベッドに入ってからまだ一時間程度しか経っていなかった。

 こんな時間に誰からだろうと首を傾げ、下を向いて頼むと一言声をかける。

 言葉に応じて体の下に敷いていた緑の絨毯が俺の体を持ち上げ、携帯が置いてあるところまで運んでくれた。

 魔法の絨毯に礼を言って携帯を手に取ると、画面には理紗の名前が書かれてあった。


「どうした? 調子でも悪くなったか?」


 理紗からしても久しぶりの実戦になる。

 はしゃぎすぎて体調を崩したのかと心配するがそうではないようで、彼女は単刀直入に用件を告げる。


『残念なお知らせ。新宿ダンジョンまた封鎖されるらしいわよ』


 こんなに短い言葉なのに頭が処理出来なくて一瞬固まる。


「また、そんな……理紗も冗談がうまいな。騙されるところだったぞ」


 理紗がこんな冗談を言わないのは内心分かっている。

 藁にも縋る思いで口から出た言葉がこれだった。

 だが理紗は無常にも現実から目を背けないでと伝えてくる。


「たとえ宝石種の犠牲者が出たとしても、ダンジョンを封鎖することはないって鏡花も言ってたろ? 何でまたこんな早く封鎖することになったんだ?」


 例え宝石種の犠牲者が出たとしても、ダンジョンは公開したままにする。

 それは今回の新宿ダンジョンの変化を見て、ギルドが出した方針だった。

 そして俺が探索を終えた後の確認では宝石種の犠牲者はおらず、安心して眠りについたところだったのに……。


『宝石種の犠牲者はまだ出てないわ。それと今回のことは別。簡単に言うと、新宿ダンジョンの周りが無差別で爆破されたみたいなのよ』


「モンスターが外に出てきたのか?」


『誰がやったのか分かってないけど多分人の仕業。突然新宿ダンジョンの前に魔石爆弾が現れて爆発したの。ニュースにもなってるわよ』


 テレビをつけるとちょうどその話を取り上げていた。

 新宿ダンジョンの前は凄い壊れ方をしているが、幸いにも怪我人は一人もいなかったようだ。

 理紗が言っていたように少しの間ダンジョンを封鎖して原因究明に乗り出すと言っている。

 ……またあの日々に戻るのか。

 ただでさえ新宿ギルドには、ダンジョンに潜る予定のないやつが押し寄せてきている。

 今から訓練室の予約など取ることはできないだろう。

 そこで理紗から一つ提案があった。


『もし……その、貴方が良かったらでいいんだけど、明日一緒にお出かけしない?』


 ……お出かけか。

 理紗がいるとなればギルドの人間もついてくることはないだろう。

 だが訓練室に入れる可能性もゼロではない。

 ここは一旦……。


『美味しいご飯食べれるところを案内しようと思ってるんだけど、嫌だったら別に断ってくれてもいいからね』


「──全然嫌じゃない。なんなら今から行くか? いつでも大丈夫だぞ」


 理紗はこんな遅くに営業してないわよ、と呆れつつもくすりと笑う。

 待ち合わせ場所や時間を確認すると俺は、魔法の絨毯に目覚ましを頼むともう一度眠りにつくのだった。


お読みいただきありがとうございます。


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