172話 宝石集め
「宝石を集めてどうするの? 他人には売れないんだよ?」
紬の質問に俺も同意する。
宝石種が落とす宝石は同じ時間、同じ移動先にいる者しか使うことができない。
今から三人で探索して手に入れたものを売り払ったとしても、外部の者にはちょっと綺麗な石程度の価値しかないのだ。
だが理紗はその言葉を聞いてニヤリと笑みを浮かべた。
「ここで質問です。レオのアイテムボックスには何が入っているでしょうか?」
「目ぼしいドロップアイテムは一通り売り払ったけどな。スケルトンの頭蓋骨なら無駄に余っているが……ネックレスでも作るか?」
「そんな趣味の悪いネックレス作らないわよ! ドロップアイテムならレオがスタンピードで大量に手に入れたでしょ。それにエアリアルで手に入れた魔物も、弱いやつなら使えるかもしれないし」
そういえば結構な量のモンスターの体を手に入れてたな。
もうあれは食糧として見ていたため、すっかり頭の中から除外されていた。
エアリアルで回収した素材も、魔石は聖剣が食べ尽くして無くなってしまったが、肉体はそのまま残っている。
問題は誰の装備を優先するかだ。
通行料の多さに応じて作れる範囲も増える。
通行料が少なければ一人の防具を強化すると強制的に一階に戻される。
だから優先順位を決めなくちゃいけない。
「最初は理紗のドレスを強化してもらうか?」
「レオに決まってるでしょ。私の強化なんて後回しで良いわよ」
「俺は何も困ってないが?」
俺の使っている革鎧はかなり格の高いドラゴンの素材を使ったもの。
現状に不満がない俺の装備を優先する意味が分からない。
理紗の提案は俺の普段の行動を心配するものだった。
「だってあなた顔を隠して戦う時、防具外しているでしょう? それなら別でもう一式作って貰いましょうよ」
理紗の提案は寝返った紬によって決定する。
話終えると理紗がダンジョンカメラに向けて説明を始める。
「じゃあ私たちは今から宝石マラソン開始するから。階層更新は後回し」
『誰のダンジョン武具を強化するの?』
『炎姫のドレスをもっと扇状的にしてくれ』
『ランドマーク消えない?』
『ランドマークテコ入れされてるらしいぞ。制限時間が伸びてるらしい』
『マジかよ。ダンジョン様万歳!』
『そうしなければ宝石集めなんて出来ないもんな』
理紗と紬が二十五階から一階まで逆向して討伐していく。
そして一階に戻ると一度外に出て二十五階に飛び直す。
そして俺は二十六階から討伐をしていく。
要はここ三日間でやっていたことの繰り返しだ。
俺もダンジョンカメラを操作する。
音声を文字から自動音声へ、流れ出した音声を確認するとダンジョンカメラに声をかける。
「今日からしばらく音声入力にする。よろしくな」
「悪口めいたものは全部AIがブロックするようになってるから、馬鹿なこと言わないようにね」
『任せとけ!』
『勇者ファンは皆紳士淑女だよ』
『安心してよ。何かあればみんなが注意するからさ』
理紗が俺のダンジョンカメラを睨むと、ため息を吐いて二十四階層へと向かって行く。
その後ろについて行くのは魔力強化の力がある赤の絨毯と、魔力回復の効果が高い白の絨毯だ。
隠蔽効果のある黒の絨毯も持って行ってはどうかと聞いたのだが、強力なイレギュラーが出現するのは二十五階かららしく、必要ないと却下された。
二人を見送って俺も二十六階への扉に向かう。
扉を抜ける前、ダンジョンカメラから聴こえてくる音声に足が止まる。
『勇者の……が大きいって本当ですか?』
『キタキタ北〜 これだよこれ!』
『生意気な美形少年を屈服させる展開と、逆に良いようにされる展開、どっちが好きとですか?』
『腐ってる! 腐ってるよ!』
どうしよう。俺のカメラは壊れたのかもしれない。