171話 ダンジョン再開
新宿ダンジョンはそれから三日後に解放されることとなった。
その間俺も潜ってはいたのだが、魔石やドロップアイテムを回収していたせいか、合計三つしか手に入れることが出来なかった。
討伐数自体はドロップアイテムを無視した戦闘を繰り返した一日目が最大だったが、それでも少ない。
後で聞いた話によると、同じ階層でずっと討伐数を稼ぐと、新種の獣──宝石種の出現率は低くなってしまうらしい。
調査員の中では人一倍討伐した俺だが、他の探索者と比べて思うように数を集められなかったのはそこに理由がある。
でもまあ回収したドロップアイテムも色をつけて買い取ってもらったし、臨時収入にしては十分すぎるほどの金額を手にすることができた。
新宿ダンジョン解放日、獣も寝静まるような早朝、新宿ギルドには玄関に入りきらないほどの人がひしめきあっていた。
彼らは新規で新宿ダンジョンに潜る探索者達で、ギルドによって情報が公開された昨日の夕方からギルドに押し寄せてきたらしい。
彼らが求めているのは、新しく公開されたダンジョン武具の強化で、武器依存の攻略をしている者たちには何よりも優先すべきことなのかもしれない。
そこで問題になったのは新宿ダンジョンの制限人数。
同時に潜れる上限は二千。一つのパーティ平均は五人程度らしく普段は上限一杯になることはない。
だが今は違った。
近場のダンジョンに潜る探索者はもちろんのこと、県外からも多く集まっており新宿ダンジョンに潜りたい者たちは、上限を有に超えていた。
だから新宿ダンジョンの情報公開と同時に、ギルドから対策として新規探索者を抽選によって選ぶと発表された。
これは上位の探索者が偏らないような措置のようだがあまり上手くはいってないようだ。
それはギルドに押しかけている探索者の数から察せられる。
彼らは抽選に選ばれなかった者で、あわよくば抽選に受かった者に同行してダンジョンに潜れないかといった考えでここに来ているのだ。
……そして何故か俺は一度も誘われることはなかった。
俺に気がついた探索者たちが一斉に目を逸らすと、入り口までの道を開けてくれる。
意外と親切だなと感心しながら俺は新宿ダンジョンに向かった。
探索者が集まっているのはギルドの中だけで、外や新宿ダンジョンにはほとんどおらず、静かなものだった。
誰にも話しかけられずにダンジョンについた俺は、守衛に番号を伝えて扉を抜ける。
先に到着していた理紗たちと挨拶を交わすと紬が欠伸混じりに口を開く。
「ギルドの中いっぱいだったね。そりゃそうかって感じだけど、しばらく続きそう」
ギルドの外で勧誘することのないように、と注意喚起されたらしい。
破れば最低一年間の抽選資格の排除。
だから最初にギルドに番号札を取りにくる探索者を勧誘するのが、抽選にあぶれた者が出来る唯一の手段であるらしい。
「俺は何も勧誘されなかったけどな。……挨拶しても目を逸らされたし」
「それはあなたがやってた押し売りが噂になってるだけよ。学校の依頼も多少はあるだろうけど、そのお陰で下手に絡まれることはなさそうだから、あんまり気にしなくても良いわよ」
理紗が原因を教えてくれるが、それを聞いても理由が分からない。
とりあえず一旦その話は置いておいて今日の予定を二人に聞く。
「今日はどうする? 階層更新か、宝石集めか」
「まずは階層進めるのでも良い気がするけどな。店に行けても強化するドロップアイテムがなければ意味がないよね?」
紬の言葉に俺も頷く。
紬がいつも着ているローブはギルド鑑定によると下層レベルで落ちる物と遜色なく、理紗の一張羅である黒のドレスは、中層のイレギュラーを倒した時のレアドロップらしい。
強化するとしたら理紗のドレスになるが、それらしいドロップアイテムは手に入っていない。
だが理紗の意見は違った。
「今日からしばらく二手に分かれて宝石を集めましょう。出来れば宝石をコンプ出来たら良いわね」