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17話 カップル割は適用外

 

 鏡花の説明ではダンジョンカメラは買えば数百万円もかかると言っていた。それがどれほどの大金なのか分からないが、そう簡単に稼げる額ではないのだろう。

 ダンジョンで生を終わらせるつもりの自分は、最終的にはダンジョンカメラを購入する必要がある。泥棒紛いの真似事をして、あの人達がいる場所に還れるとは思えないから……。


「ダンジョンカメラはどれくらい働けば借りれるんだ?」


「普通の仕事なら三日、四日程度働けば手に入るけど、住民票すらないあなたを雇う人がいるのかどうか……」


「大丈夫! そこはうちが何とかするから!」


 鏡花が俺の肩に手を置いた。どうやら仕事を斡旋してくれるようだ。


「三食昼寝付き! うちの家で雑用を一週間すれば……」


「却下!」


 理紗が鏡花を連れて隣の部屋に消えていった。


「…… 馬鹿なこと………」


「……一週間も時間があればうちの魅力で…………」


「耳年増のあなた…………」


「あ! 言っちゃ駄目なこと言ったな! そう言うあんたこそ……」


 机の上に置かれたお茶で喉を潤す。……美味い。これは毒が入っていたとしても飲む価値がある。


 先程から時折二人が声を荒らげている。ゆっくりと時間をかけてお茶を飲み干し、外に出て何か仕事を探しに行った方が早いのではないか? と考え始めた時だった。

 理紗が息を乱してこちらに走ってくる。


「ダンジョンカメラのお金は私が出す。だからその代わりに私のダンジョン配信に付き合って!」


「あ! おい! 抜け駆け……」


 鏡花が理紗の肩を掴もうとするが、理紗はそれをうまく捌いて俺の手を握る。


「どうなの? あなたは配信のことを気にしないでモンスターを倒してくれたらいいし、倒した分のドロップ品は倒した人のもの。お金のないあなたを利用しようとは思ってないわよ」


 問題ないのなら明日からでもダンジョンに潜れる、と理紗は言う。願ってもない話だが、死地を探すのに理紗を巻き添えにするわけにはいかない。


「期限は? いつまで理紗に付き合えばいい?」


「ダンジョン配信に付き合うの! 大事な所を省略しないで! 期限は、特に決めてなかったな……。そうね。強いて言うなら、レオが私の元からどうしても離れたくなった時……かな?」


 そうやって笑いかける理紗の顔は見惚れるほど綺麗で……。


「うちも付いていくからね! 仲間はずれにすんなよ!」


「……柊さん。会談の準備を急いでください」


 鏡花も参加の意思を見せるが、部屋に入って来た眼鏡をかけた一人の男に連れて行かれる。


「クソっ! 女狐! 泥棒猫」


「女狐じゃありません。ドラゴンでした」


 鏡花の足音が、罵倒の言葉がだんだんと小さくなっていく。出口に向かって呟いていた理紗は、勝ち誇っていたような表情を元に戻すと声をあげた。


「宿とってない!」


「そこらへんで野宿でもするよ」


「あなたの装備で野宿なんてしてたら邪な考えの奴らに襲われるわよ!」


「慣れてるから大丈夫。全員返り討ちにすれば…….」


「だからそれが駄目なの!」


 そういえば悪人でも気軽に人は殺してはいけないと言われていたな……。


「今からホテルで部屋を借りに行くからついてきて!」


「そこまで世話になるつもりは……」


「あなたが一人でうろちょろしてることの方が不安で嫌なの! 諦めなさい!」


 設備の説明をしてくれるために、わざわざ理紗も別室を借りると言う。この世界の風呂やトイレは複雑で面倒だからといった理由だったのだがそんなに俺の体は臭いのだろうか?


 人里離れたところで寝る時も、毎日魔道具を使って体を洗っているはずなんだけどな。こっそりと自分の体の匂いを嗅ぐが、不快な臭いなのか自分には分からなかった。






 少し大きめの宿屋に着くと理紗が受付の女性と揉めている。


「私は一人用の部屋を二つって言ったんです。どうして二人用の宿を提示してくるんですか?」


「……それがこの部屋以外満室でして。大丈夫です。お値段は一人部屋の値段で構いませんから」


「そう言うことじゃなくて……」


「あ! それと今でしたらカップル割で三割引きに……」


「大丈夫です!その割引は私たちには適用されません!」


「え〜。お似合いですよ? 美男美女じゃないですか。あれ? お客さんに見覚えが……もしかして炎姫?」


 顔を真っ赤にした理紗が戻ってくると、その手には長方形の小さな板のようなものが握られていた。


「宿取れた、んだけど……」


「部屋が一つしか空いていなかったんだろ? こっちにも聞こえてきたよ」


「そうなの。だから──」


「やっぱり俺は野宿にするよ。その部屋は理紗が泊まるといい」


 俺の言葉を聞いた理紗はポカンと口を開けて固まると、プルプルと震え始めた。そして勢いよく俺の腕を握ると……。


「何のために部屋を借りたと思ってるの!」


 何だか申し訳なくなってしまった俺は、抵抗することなく引っ張られていく。

 受付の女性に笑われながら今日の宿屋に案内されるのだった。


お読みいただきありがとうございます。


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