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168話 ダンジョンショップ

 

 地面に転がる丸い宝石を拾い上げる。

 ネズミが落とした宝石と同様に、蛇の体色と同じ配色をしていた。

 宝石は全体的に茶色で、中心には真紅の線が入っている。

 宝石を亜空間に仕舞うと、次の階層の扉に向かう。

 亜空間から取り出したハンバーガーを食べながら小走りで進んでいくと、目的の扉が見えてくる。


 驚きで喉が詰まりかける。

 大岩に隠れるようにして地面に埋まっていた扉の横には、これまた同じように水晶で作られたベルが埋まっていた。

 帰還用のベルは鋼らしき素材で出来ており、至ってシンプルなものだ。

 だがこいつは違う。

 これを見て趣味じゃないと言う者がいても、作り手の技量を疑う者はほとんどいないだろう。

 それ程の逸品だった。

 二十七階の扉を移動した時には、このベルは出現していなかった。

 それから考えるに、店への移動の条件を満たしたということだろう。



 ベルの外側には三本筋の特徴的な角杯が彫られており、それを見たことによって確信に変わる。

 三本筋の角杯は名匠ドヴェルの看板に描いていたトレードマークと一緒で、この先に待ち受けるのは、俺のせいで死なせてしまった男なのだと……。


 宝石を亜空間から取り出して水晶で作られたベルに当てると、吸い込まれるように消えていく。

 するとひとりでにベルが鳴り俺の真横に魔法陣を作り出した。

 これで移動が出来るようになった。

 仮に待ち受けるのがあいつでも、大人しく殺されるような真似はしないが、多少の攻撃なら甘んじて受け入れるつもりでいる。

 俺は手に持っていた聖剣を仕舞い込むと、魔法陣の中に足を踏み入れた。








 移動した先は岩壁に覆われた洞穴のようなところだった。

 道幅は広く壁には燭台が取り付けられている。


「ようこそいらっしゃいました。本日は何をお探しでしょうか?」


 振り返ると犬型の女獣人が黄金色の耳をピンと立てながら声をかけてくる。

 獣人が纏っている防具は見窄らしい革鎧で、お世辞にもいい性能だとは言えない、が。

 ……強いな。

 笑顔を見せながら油断なく警戒する様は、エアリアルの上位探索者のように感じる。


「私のことが気になりますか? 確かに私は可愛くて胸が大きいですけど、ここはそういった場所ではないので、誠に申し訳ありません」


「違う! お前の防具が気になっただけだ!」


 美しいって罪ですね、とぬかす女獣人に言い返す。

 女獣人はキョトンとした表情を浮かべると、自分の防具に目を落とす。


「ああ、これですか。普段はもっと良いものを装備しているんですが、今回は特別製で、お客様のような方のために用意したものなんです」


「言っている意味が分からんが?」


 俺の言葉を聞くと、女獣人は少し困り顔で語る。


「以前、こちらにいらしたお客様の中に、私の防具を奪おうとした方がおりまして……。それからお客様を出迎える時の服装に変更があったのです」


「奪おうとした奴はどうなった? 殺したのか?」


「まさか! 五体満足でお帰り願いました」


 含みのある言葉。

 それを聞いて思い出したのは、鏡花が言っていた店の中に入った者の中に、気絶した状態でダンジョンの一階に飛ばされていたという話だ。

 多分こいつに返り討ちにあったのだろう。



 そいつらから具体的な話を聞こうにも、彼らは店の中に入っていた記憶を失っていたと聞いた。


 そのことについて色々聞きたいことはあるが一旦置いておいて、俺は女獣人に問う。


「ここにドヴェルと言う名のドワーフはいるか?」


「ドワーフはいますが名はありません。彼に何かご用でしょうか?」


「……一度会ってみたい。それは可能か?」


 女獣人は一瞬無表情で固まると、洞穴の形が変化していく。

 真っ直ぐだった洞穴に階段のようなものが生まれると、女獣人の表情が戻ってくる。


「出来ました。今回の通行料ではこれが限界です。他のところに繋げるのならばまた鍵を集める必要があります」


「鍵ってのはベルに放り込んだ宝石のことか?」


 俺の質問に女獣人は頷く。

 女獣人にお礼を言って、階段を進んで行くが……。


「お前もついてくるのか? 出来れば遠慮願いたいんだが」


「私は案内人ですのでそれは出来ません」


 女獣人は俺のお願いに首を振る。

 そして驚くべき言葉を口にした。


「仮にあなたが私を殺したとしても、私が消滅することはありません。ダンジョンの外に出て、再び通行料を集めるとまた出会うことになるでしょう」


 そしてそれは今から会う彼も同じです、と女獣人は付け足す。


 それ以降は黙々と階段を歩き続ける。

 二分ほど歩くと階段は終わり、平らな地面が広がっていた。

 そこには少々大きめの家が一軒建っており、その横には見覚えのあるドワーフが立っていた。

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