167話 蛇
二十八階層のモンスターはヘヴィホーク、一部でドジっ子ホークというあだ名で呼ばれているらしい。
猛禽類と思えないほどその身はでっぷりと太っており、必死に羽を動かして空を飛ぶその姿はどこか滑稽に見える。
ここの階層は全体的に薄暗く、ヘヴィホークの体も黒一色のため、奇襲されたら厄介だがそうはならない。
なぜならこのヘヴィホーク、羽音がかなりやかましいのだ。
餌を食べる必要のないダンジョンだから存在を許されているが、こいつが魔物としてエアリアルにいればすぐに淘汰されてしまうだろう。
襲いかかる前に近づいただけで場所がばれ、薄暗い空に漆黒の体では完全に隠し通せるものではない。
実際ここの階層の対処方法は、大楯を持った人間がヘヴィホークの突撃を受け止めて、ぶつかった衝撃で目を回しているヘヴィホークを殺すといった、実に簡単なものになっている。
なので攻略難易度的に、二十六、二十七階層の方が厄介で、死人も多いらしい。
階層詐欺と揶揄されている二十八階層なのだが、今は異質な音が鳴り響いていた。
荒野にそびえ立つ謎の石柱。
それが間隔をあけて幾つも存在している。
石柱はギルドのビルに相当するほど高く、ヘヴィホークを模した彫刻がされていた。
そして石柱の天辺には銅鑼のような物が取り付けられており、それをヘヴィホークがひっきりなしに叩いている。
ヘヴィホークの力の割に、音は広範囲に鳴り響き──騒音に乗じて飛び込んできたヘヴィホークを掴み取る。
「俺に奇襲を仕掛けたくば、気配を消して挑んでこい」
ヘヴィホークの首根っこをへし折ると、光に還る。
そして魔石を残すことすらなく消滅した。
……こんなこともあるのか。
魔石は落とすものだと思っていたから少し驚いた。
絶え間なく鳴り響いている銅鑼の音と、定期的にやってくる奇襲。
このままでは埒があかないのでこちらから攻めることにする。
聖剣を取り出して、大きく跳躍する。
すると銅鑼を叩いていたヘヴィホークが、びっくりしたようにこちらを二度見した。
戦闘は一瞬。
頭を断ち切られたヘヴィホークが地に落ちる。
ヘヴィホークは、地面に激突する前に光に還るがまたしても何も落とさない。
首を傾げつつも戦闘を再開していくが、ドロップアイテムはほとんど落ちることはなかった。
攻撃の意志があるやつ以外は、石柱の上で休んでいることが多く、討伐数を稼ぐのはそんなに苦労しなかった。
目印となる石柱に移動して、逃げられる前に倒し切る。
次に向かう石柱に顔を向けると、自動車程度の大きさの蛇が巻き付いており、こちらをじっと見つめていた。
茶色の体表に真紅の瞳、蛇は俺が気がつくのが分かると口から特有の音を出して威嚇する。
「……ようやくお出ましか」
思いの外時間がかかったが無駄ではなかった。
安堵の息を吐くと蛇の前に降り立つ。
蛇は巻き付いていた石柱に頭だけ残して体を埋めていく。
頭以外が全て石柱の中に収まると、まるで水の上を泳ぐように移動し始めた。
そしてそのまま地面に到着すると、頭も地面に潜り込む。
さて次はどのような相手なのか……。
自然と上がる口角。
地面に潜り込んだ蛇がどこにいるのか探知出来ないため、五感強化を全力で行使して、後の先を狙う。
背後に気配を感じ、体を反転して聖剣を振り抜いた。
聖剣は地面から飛び出てきた蛇の頭を両断し、蛇はそのままゴロリと転がる。
分身か、回復か……ネズミだけでもあれだけの力を持っていたんだ、油断は出来ない。
聖剣を握り直し次の攻撃を待っていると、蛇はほどなくして宝石に変わった。
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