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165話 猿の弱点

 


 何度、拳を打ちつけただろう。

 何度、猿が抵抗すら出来ずに吹き飛ぶ様を見送ったのだろう。

 緩慢な攻撃の猿はこちらに攻撃を当てることすら出来ずに、こちらのいいようにされている。


 奥歯を強く噛み締める。

 ……鬱憤を晴らすどころか、溜まる一方だった。

 殴った感触は確かにある……が俺の拳は猿を貫くどころか、骨を砕くことすら出来なかった。

 だが相手が身体強化の魔法に長けているわけでない。

 お粗末な回避能力はまるでこの前、理紗の通う学校で戦った生徒に近い。

 倒れ伏した猿がガバリと起き上がる。

 そして大きな欠伸をしてこちらを挑発。


 猿のそのちぐはぐな強さと、それを超えることが出来ない俺の弱さ。

 脳が沸騰しそうに熱くなり、再度攻撃を仕掛けるも……。


 同じように弾き飛ばされていく猿を見送った時、ズボンに何かが飛んできた。

 初めは猿の血かと思ったが、どうやらそうではないようで……。

 下から漂ってくる不快な香りに眉をしかめる。

 紬がプレゼントしてくれた、探索者用のズボンにはべったりと糞らしきものが付いていた。

 ここで聖剣を取り出さなかった俺は、やはり大人だと思う。

 だが少しばかり冷静さを失った俺は身体強化の魔力がブレ、体外に一部漏れ出す。

 その瞬間、猿に変化があった。

 さっきまでの余裕は何処へやら、一心不乱に逃げ出している。


「何があった?」


 逃げ方を見るに深手を負ったわけではなさそうだ。

 考えられるのは、今まで猿を守っていた力が尽きたか、俺が何かしたか……。

 試してみる価値はありそうだ。

 身体強化を抑えた状態で近づくと、猿は少し落ち着きを取り戻し、立ち止まる。

 だが猿は煽ってくることはなく、じっとこちらを注視していた。


 俺の何に警戒している?

 試しに腕を動かしてみたり、体の中を巡らしている魔力の量を調整たりしてみるが反応はせず。

 後は……。


「魔力に怯えていたのかお前は」


 身体強化を体内に留めるものから、体外に放出して留めるものに変えたところ、猿が甲高い悲鳴を上げて逃げていく。

 その状態を維持したまま、猿の元に駆け寄り腕を振りかぶると──殴る前に猿の姿が消えてしまった。


「クソっ! 時間切れか。まあ舐めてかかった俺が一番悪いが、珍妙な奴もいたものだ……」


 地面を蹴りつけながらぼやく。

 猿は魔法の気配を感じさせることなく、姿を消していた。



 どうせなら糞も消えてくれたら良かったのに、生暖かい感触は残ったままだ。

 ズボンを着替えて汚れた足を拭き取ると上空に跳び上がって索敵する。



 宝石を落とす動物の条件はまだ正確に分かっていないが、大量の魔物を狩り続けることで出現する確率が高いらしい。

 あの猿も、26階のモンスターをあらかた狩り終えると出現しており、それに気がつくことが出来なかった俺は握り飯を掠め取られた。


「……階層移動した方がいいか?」


 モンスターのリポップを待つより、先に階層を進めた方がいいと判断し、次の階層への扉に向かった。


 27階層は先程の草原より葉が生い茂っており、膝丈ほどの草が一面に広がっている。

 全力で駆け抜けてもいいが、そうするとズボンが酷いことになりそうだ。

 なので、空中を跳び上がりながら殲滅していくことにする。

 紬が作ってくれたお弁当の他に、軽食を大量に買い込んでいるため、魔力の心配はする必要がない。


 作業のように27階層のコボルトたちを倒していく。

 土兵を召喚し、魔石の回収を頼んでは見たのだが、動きがあまりにも遅く、草むらのせいで魔石を探すことに苦戦していたためすぐに土に還した。


 一通り狩り終えると周囲を確認する。

 光る動物を見つけることが出来なかったため、魔法の絨毯に乗って買い溜めておいたハンバーガーを食べ始めた。


 ……魔石の回収は、今回はいいな。

 モンスターが倒れてから魔石に変わるまでの時間を待っていては時間がかかるし、それよりも宝石を手に入れることを優先したい。

 それにこの階層のドロップ武器や魔石は大した金にならないだろう。

 なので目的が果たされるまでは回収を諦めることにした。


 ハンバーガーを食べて包み紙を地面に捨てる。

 その動作を繰り返していたところ、ふと違和感に気がついた。

 草原のはるか遠くの草むらが不自然に揺れている。

 食べる手は止めず、目を細めて確認していると、徐々に草むらの揺れが近づいてきた。



 そして草むらの切れ目から一匹のネズミが姿を表す。

 顔を出したのは、ほんのりと黒いオーラを纏っているネズミで、その背後から同じ姿のネズミが飛び出してきて──俺が捨てたハンバーガーの包み紙に食いついた。


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