161話 摘発
全ての策略が泡と消えた後、俺は家に帰ると次なる策を考えていた。
男たるもの、この程度の失敗では終われない。
何度でも挑戦する必要があるのだ。
そこで思いついたのは、ダンジョンカメラを使って配信をすることだ。
外が駄目なら家で配信をして、視聴者から希望者を募ればいい。
俺の配信はよく人が来てくれるそうなので、探索者の一人や二人現れるだろう。
……だがここで問題が、ダンジョンカメラは昨日の夕方、紬と理紗がこちらの様子を見にきた時に、理紗に言われて紬のアイテムボックスに預けてある。
なにやら、専門の業者に見てもらって耐久度を確認してもらうらしい。
ダンジョンカメラのレンタルは基本的に一人一個。
デスパレードで壊してしまった時は、情報と引き換えに新品のものを用意してくれたが、本来なら修理にもお金がかかる。
……思いきってダンジョンカメラを買うか?
買えない金額ではないのだが、それを二人に伝えると酷く悲しそうな顔をしたため、買うのを延期していたのだ。
どうやら二人は俺がダンジョンカメラを購入すると、一人でダンジョンに潜り続けると思っているらしい。
自分自身、それも悪くないと思っているのだが、今は理紗の成長した姿が気になるのでそれを実行する気はない。
……新しい家を借りるために貯金は多い方が良いと、自分に言い訳をしながらダンジョンカメラの購入は断念。
定期的に理紗たちからくる状況確認の電話を受けていると、チャイムが鳴った。
玄関の扉を開けると息を荒げた鏡花が立っており、俺の体を押して二人中に入り込む。
「おい、どうした?」
鏡花は無言のまま俺の手を引き、リビングに向かうと腰掛け鞄から砂時計の魔道具を取り出した。
鏡花はそれを無言で逆さにすると魔力の波動が周囲を包み込む。
これは冬梅が最近使っていたから記憶に新しい。
「防音の結界か。何かあったのか?」
「今日テレビつけたか?」
「いや、今日は見てない。忙しくてな」
鏡花は俺の言葉を聞くなりテレビに電源をつける。
チャンネルを変えると、見覚えのある男が地面に座り込んでいる姿が映し出される。
「この男に見覚えは?」
「この前話した、俺を脅してきたやつだ。どうなってる? 捕まったのか?」
「……やっぱりか。今朝、交番前で転がってたんだそうだ。ご丁寧に持ち帰り禁止の翻訳のオーブを抱えながらな」
テレビの音に耳をすませると、何やら協力者がどうとか話している。
鏡花に説明を求めると、状況が読めていないのか、彼女は訥々と今分かっていることだけ語ってくれた。
あの男は警察に逮捕された後、持っている携帯を調べられ、芋づる式に関係者の連絡先が出てきたらしい。
そしてその中には大企業の御曹司の名も出ており、同時期に、知識のオーブの研究をしていた場所も何者かにリークされ、摘発された。
恐らく全てマスターとやらの仕業だろうが……。
「これで一件落着ってことなのか?」
脅してきた相手がどうなろうが俺の知ったことではないし、同情するはずもない。
鏡花は静かに頷くと、マスターと出会った時の話は他言無用で頼むとだけ伝えてきた。
特に問題もないので俺も了承すると、ソファーにうつ伏せに飛び込んだ鏡花に向かって疑問を投げかける。
「なあ鏡花、サンタさんってのは──」
「そうだレオ! 新宿ダンジョンの進捗聞きたいか?」
「何か変わったことがあったのか?」
外から見た感じ内装が装飾されてあったりしたが、ダンジョンの仕組み自体も変わったのだろうか?
鏡花は覚えてろよ如月と小さな声で吐き捨てると、体を起こす。
「うちはまだ入ったことはないけど、ダンジョンに店が出来ていたそうだ」
「店?」
「そう。そこには獣人らしき女の子とドワーフらしき男がいたらしい」