160話 策士相手を困らす
俺はその後、ギルドの一室に連れていかれ、如月からお説教を受けることになった。
如月の話では、鍵の使用権を返却したいといった者たちが、今日ギルドの受付に押し寄せて来ていたらしい。
……不思議な話もあるものだ。
確かにあの少年に関して言えば俺が関係あるのかもしれないが、他の奴のことまで俺のせいにされても困ると伝えたのだが、彼女は小声で、分からないのならいいです、と冷たくあしらわれた。
今回の罰則として、ギルド前での勧誘は禁止と言われ、反論することなく甘んじて受け入れた。
如月は素直に受け入れた俺を見て驚いた表情を浮かべていたが……優秀な戦士とは、常に二手、三手先を予想して行動するものなのだ。
俺を侮ってもらっては困る。
だが完璧と思えたその策も、味方である理紗によって潰えてしまうこととなった。
発端は如月の携帯にかかってきた理紗から電話。
如月は盗み聞きしないようにと、俺に忠告して部屋の外に出て行った。
部屋に戻ってきた如月は俺の顔をじっと見つめると、話を切り出した。
「……理紗さんから連絡がありました」
「そうか、それは良かったな。話が終わったのならそろそろ俺も散歩に出ていいか? 今日は予定が立て込んでるんだ」
「ギルドの外で同じようなことをしては駄目ですよ? レオさんの場合、下手するとお縄につくような事態に発展しかねませんからね」
ちなみにこれは理紗さんからのお願いです、と追い討ちをかけてくる。
そんな伝え方をされたら何も言えなくなる。
口籠る俺を見て如月は、まさか本当に行く気だったんですか、と呆れたように呟く。
そして今度は、俺の口から行かないと宣言するように求めた。
「……何故そこまでする必要がある? 別にギルドには迷惑が掛からんだろ?」
「探索者が犯罪を起こすと少なからずギルドに迷惑がかかるものですが……それはまあいいでしょう。ですが、これは理紗さんからの頼みです。嘘をついてまで行くのなら止めない、とも言っていましたけどね」
……迷惑な話ですけど、と如月は続ける。
俺が所属した組織は、死に別れた傭兵団だけで、そこでは、どいつもこいつもかなりの頻度で他の傭兵たちと喧嘩をしていた記憶がある。
あいつらは巧妙に相手が悪いような流れに仕向けることが上手いので、依頼主から処罰されることはなかったが、もっぱら喧嘩の勝敗を酒の肴にしていた。
戦士の道に背くような真似をすると、粛正されることはあったが、それでもまともな部類だったと思う。
一般人には手を出さないし、敵対しなければ殺すことはない。
だがこちらだとその程度では足りないようだ。
俺の認識が間違っていたと謝罪して、もう話はいいかと聞いたところ、如月のポケットから理紗の声が聞こえてくる。
『じゃあ最後に、私たちの学校に来ても駄目よ。依頼はこの前で終わったんだからあなたはもう部外者。来ても入ることは出来ないわよ』
「わ、分かってるぞ。そんなつもりはなかった」
『……如月さんどうですか?』
「面白いくらいに視線が泳いでます。理紗さんの言う通りでしたね。まさかそこまでして訓練したかったとは……」
十分こちらに聞こえているにもかかわらず、如月は携帯を机の上に置くと、何故かボリュームを上げていく。
『訓練室の件は鏡花さんにお願いしているから、少しだけ我慢してよ。くれぐれも不法侵入はしないようにね。許可なく他人の敷地に入ったら捕まるから』
「分かりましたかレオさん? 何か必要なものがあればギルドの受付に言ってくれれば用意します。新宿ダンジョンの閉鎖も、そんなに長くはなりそうにないですから安心してください」
二人は駄々をこねる子どもに言い聞かせるようにこちらに語りかける。
気恥ずかしくなった俺は大人しく頷きつつ、質問を投げかけた。
「他人が持つ敷地内に入るのは違法なんだよな?」
「それがどうかしましたか?」
「……サンタさんとやらは大丈夫なのか?」
ほんのりと笑みを浮かべている如月が固まる。
彼女は天井を向いたり、左右を向いたり落ち着きない動きを見せると。
「えっと……レオさんはサンタの存在をどう思っているんでしょうか?」
「冬場にプレゼントを持ってきてくれるのだろう? 俺も少し楽しみにしているんだ」
『如月さん、ごめんなさい電波が悪くなって切れちゃ……』
「──待って逃げないで……」
携帯に向かって叫ぶ如月。
狼狽えた如月の様子でなんとなく察することができる。
「……大丈夫だ。その反応でなんとなく理解した。サンタさんとやらは空想の話なんだろ? 信じてた俺が馬鹿だったって話だ。怒らないから本当のことを教えてくれ」
如月は机の上に置かれてあったお茶を飲み干して大きく息を吐く。
「……私はあまりそこら辺は知らないので、鏡花さんに聞いてください」
如月は顔を横に向けると、そう呟いた。
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