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158話 死神

 

 代償型ダンジョン。それは世界的に多くのダンジョンを有する日本でも、一つしか発見されていない特殊なダンジョンである。

 場所は京都にある有名なお寺、金閣寺が変化して出来たダンジョンで、比較的、踏破する難易度は易しい。

 比較的というのはダンジョンの仕様が関係している。

 このダンジョンはデスパレードのように、一体のフロアボスとの連戦を繰り返すようになっている。

 そしてこのダンジョンの大きな特徴は、探索に失敗しても殺されないことだ。

 深手を負うとダンジョンの一回層に強制転移させられる仕組みになっており、一階で待機しているヒーラーによって癒やしてもらえる。


 だが綺麗な薔薇に棘があるように、このダンジョンにも罰は存在する。

 なんせ、踏破報酬も美味しく、実力問わず人気のあるこのダンジョンの別名は『地雷ダンジョン』と呼ばれているのだから……。


 このダンジョンの踏破は多くて五階だが、稀に六階へ招き入れられることがある。

 六階層の死神こと、特殊なモンスターは命を奪うことはないが、代わりに奪うものがある。


 死神は人を殺さず、探索者としての価値を殺す。


「……感情を奪うだと?」


「六階層で敗れた者は何かしらの感情を失うんだ。何でそんなことするのか謎だけどな。そしてそうなった探索者は今後、死神に囚われることになる」


 死神の被害者は、デスパレードのようにダンジョンに閉じ込められる、わけではない。

 ただ、他のダンジョンに行ったとしても、死神に出会うことになる。

 低階層の敵として、はたまたフロアボスとして死神は現れ、パーティーを壊滅させて感情をまた一つ奪い取る。


『まあ、そうですね。その感情はありませんから』


 咲もこいつに感情を奪われたのだろう。

 どんなに優秀な探索者でも、死神にマーキングされた時点で、誰からも相手をされなくなる。

 この世界の探索者はパーティーで潜るのが基本である。

 五体満足のように見える彼女も、それにより探索者を続けれなくなったのかもしれない。


 説明を終えた鏡花は気をつけろと忠告する。

 ドロップアウトの連中が用意した誓約書の魔道具は、咲が伝えてくれた内容が書かれてあったが、だからこそ不自然。


「依頼の報酬と釣り合わないってことか?」


「……多分ね。もしかしたら、レオに会うために依頼を引き受けたのかもしれない。そう考えると納得がいく」


「……もしかしてレオさんに依頼する気なのかな?」


 紬の質問に鏡花は何も答えない。

 そして俺も何のことか分からないので、当然答えられない。


 ふと視線を感じ、左に目を向けると鏡花がジト目でこちらを見ていた。

 ……もしかすると二人の会話についていけてないのがバレているのかもしれない。

 苦し紛れに値段次第だな、と言い放つと背後から紬の手が伸びてくる。

 紬はそのまま俺の頬っぺたを押し出して変形させていく。


「適当な返事しないでよ。レオさんは本当に依頼を受けそうで怖いから……」


 紬が声を落として呟く。

 ……これは冗談にしたほうが怒られなさそうだ。

 こちらとしては割と本気だったんだが、二人の本気で心配してそうな雰囲気に屈して、冗談だ、と謝罪した。


 紬は懇々と出来の悪い幼子に言い聞かせるように話していく。

 少し話す度に今の話が理解出来たか確認して……。

 それは理紗が風呂から上がっても続き……彼女も参加することになった。





 紬の話を要約すると、死神の討伐を俺に依頼してくるのでは? といったものだった。


「死神を討伐すれば感情を取り戻せる……か、それは感情を奪われた者たちの願望じゃないか?」


「そうかもしんないんだけど、一時期この噂を信じる者がかなりいたんだよ。有名探索者に押しかけるほどにな……」


 鏡花の言葉に紬も説明を重ねる。

 一部感情が欠落している彼らは、探索者を引退しても心休まることはない。


 そのような境遇の者たちは、犯罪を起こす者も少なくなく、テレビがそれを煽るように放送したことによって、死神の被害者=犯罪者のレッテルを貼られてしまった。

 その偏見は簡単に払拭(ふっしょく)できるはずもなく、彼らは死神に魅入られた者として後ろ指さされる人生を送っている。


 三人は真面目な顔して俺に説明していくが……。


「……俺に倒してほしいとは誰も言わないんだな。もしかして戦えば負けると思われているのか?」


「それは違う……けど死神は駄目! あれだけは人が倒せる相手じゃないの!」


 紬が俺の言葉を否定するが、俺がそいつに勝てないと思われているのは事実。

 そして残りの二人も同意見のようだ。

 そう言われると戦ってみたくなるのが戦士の(さが)

 闘気(みなぎ)らせる俺を見て、焦ったように理紗が声をかける。


「腕試しに戦おうなんて考えないでよ。死神はどんな魔法を当てられても無傷なのよ!」


「……それ、俺に関係あるか?」


 魔法の使えない俺にそれを伝えても、説得力に欠ける。

 理紗もその言葉に……無いわねと同意しかけるが、紬の咳払いを聞いて頭を振り払う。


「……死神の被害者には悪いけど、私にはレオのほうが大事なの。だからレオには死神と戦ってほしくない」


 戦士とは死を(いと)わぬ者たちだ、そう返そうとするが言葉になることはなかった。

 理紗の切実な願いに押され、口をつぐむ。

 胸のうちに芽生えたあったかい感情に気がつかないふりをして、小さく頷いた。


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― 新着の感想 ―
勇者の目的が何だったかわからなくなってきた あとコミュ力がないのはわかるが必要以上に知能も下がってる感がある たった一人で魔王討伐まで成し遂げた男の適応力が発揮されてない的な
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