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156話 無実の証明


 洗いざらい全ての情報を吐かされた。

 そして今は紬が用意していた料理たちを俺が一人食べている横で、三人が議論を交わしている。


「その男は持ち帰り禁止のドロップアイテムを使って研究をしていたってことなのよね。それも組織の規模で……鏡花さん、何か心当たりはありますか?」


「……ありすぎて困るくらいだよ。アイテムボックスの中を確認する術がない現状、摘発できないからね。違法のドロップアイテムが裏で売買されていると聞いたことがあるけど……面倒なことになってきたな」


 鏡花が俺に分かるように説明してくれるが、持ち帰り禁止の違法ドロップアイテムの所持が見つかって処分される企業は、少なくないと言う。

 誰も使いこなすことのできない物を研究して、一旗揚げようとする馬鹿は小さい企業に多いらしく、取り締まりも問題が発生してから気がつくといった、後手後手の対応になってしまっているようだ。


「……でもまあ、うちが気になるのはそのマスターだけどな」


「変な魔法の使い手、だよね。師匠、何か心当たりあるの?」


「噂だけ聞いたことがある。とんでもない悪党ってわけじゃないんだけどさ、その呼び名は裏では結構な力があるらしいよ」


 確かに、あれ程の身体強化が出来るのなら、それも頷ける。

 もしかすると裏の人間の中には、同じようなことができる使い手がゴロゴロいるのかも知れないが。



 話したのはマスターが使った奇怪な力のことのみで、身体強化については話すことが出来なかった。

 もしマスターの近くにエアリアルの関係者がいるのなら、俺がよく知っている奴かもしれない。

 この力の使い方を知っている者は、同じ傭兵団に所属していた数人の幹部と、団長の息子であるオルトだけだ。


 俺の他にはこの力を考案したオルトだけが使うことが可能で、幹部たちがやり方を教えれるとは思えない。

 オルトは傭兵団の仲間が皆殺しにされる二年前に死んだ男であり、その死は俺が大きく関係している。

 ……あいつは俺を恨んでいるのだろうか?


「どうしたのレオ? 何かある?」


「いや、なんでもない」


 考えに浸っていると、理紗がこちらに向かって問いかける。

 理紗は再びご飯に手をつけた俺をじっと見て、話したければいつでも言って、と続けると鏡花たちとの会話に戻った。


「レオさんが写真の一枚でも撮ってくれば相手が分かったんだけどね。そう上手くはいかないか」


「廃人みたいになった男ならそれで分かるけど、マスターは多分無理だね。マスターの目撃情報はいくつかあるんだけど、全て別人のような風貌だって話だよ。マスターが複数人いるか、魔法で変装してるのか謎だったけど、レオの話を聞く限り複数人いるっぽいなあ」


「どうしてだ?」


 鏡花に質問すると、理紗に鋭い目でご飯が口に入っている間は喋らない、と注意される。

 なので大人しく食事を再開して、目で返答を促すと鏡花は呆れたように話し出す。


「……まんま母親じゃないか。まあいいや。レオの説明を聞いた限りだと、マスターの魔法は精神攻撃系かな? だとしたら変装の魔法は使えないだろ」


 いや、何を当たり前のことを聞いてくるんだ? みたいな雰囲気を出されても理解出来ないんだが。

 これは俺が馬鹿なだけなのか? 理紗も紬も疑問に思っている様子はないから、分からないのは俺だけなんだろうが……。


「よく分かった。ありがとう答えてくれて。もう理解できたから次にいってくれて構わないぞ」


 馬鹿がバレないように分かった体でお礼を言うと、三人は顔を見合わせて何かやりとりをする。


「あのレオさん。この世界の人はみんな一つの魔法しか使えないの。だから師匠は目撃情報から複数人いるって判断したんだよ」


 ……そういえばそんなこと言っていたな。

 魔法が授からなかったと分かった時点で、興味を失ってしまった弊害か、記憶から消してしまっていた。

 こんな情報を忘れるなんて、平和ボケと言われても仕方ない。

 もう少し危機感を持たなくては……。


「ありがとう。でもそれは一度教えてくれた内容だな。俺はちゃんと覚えてたよ。……本当だぞ? 忘れてはなかったからな?」


 教えてくれた紬にお礼を伝えるも、理紗に分かったからあなたは食事に集中しなさいと注意を受ける。


 三人に隠し通せて上機嫌で美味しいご飯を食べていくと、紬が声を上げる。


「りっちゃんも今日ここに泊まる予定だったよね?」


「そうよ。それがどうかしたの?」


 俺の話を聞くにあたって、遅くなりそうだから、今日は鏡花の部屋に泊まると二人は言っていた。

 二人の着替えは、紬のアイテムボックスの中に置かれており、二人が泊まっている寮への連絡もすんでいる。


「さっきのレオさんの話を聞いた後で……ここに泊まるの?」


 紬の視線の先には、くの字に曲がっている金属扉が入り口横に転がっている。

 それは泥棒どころか、その辺の野良猫の侵入すら拒むことはできないだろう。


「大丈夫だ。俺が外で見張っているから、二人は安心して休んでくれ」


「そんな真似出来るわけないでしょ。予備の部屋とか借りれないかな?」


「それは厳しいな。借りれたとしても、こんな急じゃ大した部屋は借りられないよ。外で借りるのが一番だけど、セキュリティがな……」


 理紗の言葉に鏡花が難しい顔をする。

 俺に部屋を用意してくれた時もそうだったが、ギルドには人が泊まる用の部屋はあまりなく、特別な訓練室に場所を取っているらしい。

 これは他のギルドも同じで、元々の部屋数が少ない上に、ギルドの上位者が荷物置きに使ってたりして、空き部屋はあまりないようだ。


 そこで鏡花は何かを閃いたような表情を浮かべるとわざとらしく手を叩く。


「そういえばあったな! 今日泊まれそうな部屋。そこならこの人数分くらいは余裕だよ」


「本当! 時間も時間だし、今から寮に戻れないから助かったよ。ギルドの空き部屋なの? でも師匠さっき空き部屋は用意できないって言ってたよね?」


「空いてはないな。今も使われてる。だからまずは、部屋の主にお伺いをたてるしかないね」


 鏡花はそう言うと、満面の笑みを浮かべてこちらを見た。


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