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154話 勇者の酔い方

 

 あいつらの言葉は全く役にたたなかった。

 つねられたほっぺをぐにぐにと動かされながら、心の中で文句を吐き捨てる。

 この言葉を送っといたら大抵の女は許してくれると言っていたはずなのに……。

 そして俺はいつまで耐えればいいのだろうか?

 理紗は何も言わずに俺のほっぺたを弄ぶ。

 そして何かに気がついたような表情を浮かべると、俺に顔を近づける。


「……お酒飲んだ?」


「飲んだぞ。俺は大人だからな。酒ぐらい嗜むさ」


 ……嘘だ。もう一度飲みたいとは思わない。

 だが一端の戦士が、酒が苦手なんて恥ずかしいので、少しだけ見栄を張ることにした。

 酒臭いのか、理紗は少し眉を寄せると俺から離れる。


 俺たちの間に静寂が生まれ、何かを牽制し合うような、空間が出来上がりつつある中、それを打ち砕くように廊下から叫び声のようなものが聞こえてくる。


『うちがいない間に話をしゅしゅめるな〜』


「鏡花か?」


 声は鏡花と同一だったが、様子が変だ。

 呂律が回っておらず、何かの破壊音を響かせながらこちらに駆け寄ってくる。

 すると、背中を預けていた扉に、体当たりしたような衝撃が加えられた。

 鍵をかけていないはずの扉を開けるのに悪戦苦闘している鏡花は、何故か魔法を使う気配が……。


「ちょっと、どうしたの?」


「師匠泥酔してるよね、これ……」


 理紗の袖を掴んで扉から遠ざけると、紬も同じように避難してくる。


『うちを除け者にしゅるな〜』


 その声と同時に、柔らかそうな毛皮に覆われた腕が扉を貫通し、金属製の扉は力ずくで外に引きづり出された。


 鼻息荒く中に入ってきた鏡花は、視線を巡らせ、俺を見つけると一足飛びに跳躍する。

 その腕は未だ魔法の影響下にあり、適当に受け流してしまうと、理紗たちに被害が出かねない。

 大人しく身体強化を施し、鏡花の突進を受け止めると、俺の背中に手が回され胸元に鏡花の頭を押しつけられる。

 鏡花は、聞き取ることのできない言葉を漏らしながら、頭をぐりぐりと擦り付ける。


「レオさん、そのまま師匠を抑えといて」


「大分酔ってそうだな。これも回復させられるのか?」


「通常時まで戻すのは無理だけど、多少は回復させられるよ。まともに話せるまでは戻せると思う」


 翼を展開した紬は、手のひらの上に光の玉を生み出し、息を吹きかける。

 飛んでいった光の玉は、鏡花の口の中に入っていき、鏡花がうっすらと光に包まれた。


「レオ、話があるの。ここに座ってくれる?」


 眠りについた鏡花をベッドに寝かすと、しかめっ面の理紗に呼ばれる。

 黒光りする美しい机を挟むように大きめのソファーが置かれており、それぞれ二人が座って俺を待っている。

 手前側、紬が座っているソファーに腰を下ろす。


「あの、レオさん?」


「どうした? 呼んだんじゃなかったのか?」


「いや、そうなんだけど、少しだけ近い気がして……」


 申し訳なさそうに告げる紬に謝罪して、ソファーから離れる。

 そして玄関近くの床に座り込むと……。


「何でそんなに離れる必要があるのよ! 紬は、触れ合うくらい近いから、少し離れたほうがいいって言っただけで、ソファーから離れろなんて言ってないわよ!」


「いや、不快にさせたのなら、こっちの方がいいだろう。ここでも声は聞こえるから俺は問題ない」


「いいから、こっちに来なさい。私の座ってるソファーならどう座っても構わないから」


「僕も……いや、何でもない」


 理紗が自らが座っているソファーを手のひらでぽんぽんと叩きながら指示すると、紬が何か言おうとして口を閉ざす。

 唇を尖らせむくれた表情を見せる紬に謝罪すると、理紗の隣に座り込む。


「あなた酒が入ったらそうなの? ……別にいいんだけどさ。あまり外で酒を飲まないようにした方がいいかもしれないわよ」


「酒臭いか? ……離れた方がいいか?」


「そういうことじゃなくて……。もういいから話が進まない。これについて話を聞かせてもらえる?」


 理紗は少し体を逸らして携帯を取り出すと、机の上に置く。

 携帯には一組の男女──咲の手を引く俺の姿が写っていた。


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― 新着の感想 ―
女どもが面倒くさくなってきたな 勇者がこっちで奇行しがちなのは承知してるんだからまずは事実確認から、だろうに
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