150話 加護違い
「もう一度言ってくれないか? 俺が何だって?」
「だから、お前が未来からきた人間だってことは調べがついているんだよ。最初にダンジョンに現れた時の特殊な階層移動。あれでお前は時を超えて移動してきた。私には分かってるぞ」
……さては馬鹿だなこいつ。
自信満々に言い放つ男に、俺はほっと胸を撫で下ろす。
お陰で異世界の存在は秘匿出来そうではあった。
だとすればこっちも気になることがある。
男は自分の言葉に確信を得ているように感じる。
「何を根拠にそんな話をしているんだ? 仮に俺が未来から来たとしても、それを確かめることなんて出来やしないだろ?」
「あるんだよそれが。君がここに到着してから、不自然なくらいのギルドのバックアップを受けていることは分かっている。それに君の身分を保証するものは、ギルドが発行している資格証を除いて、この世界のどこにも存在しないこともね」
異世界出身の俺は身分証など持ち得ているはずもなく、男の言い分は間違っていないが……それでも未来から来たと断言するのは、いささか飛躍しすぎではないだろうか?
何か言い返してもやりたいが、変なことを口走ってボロが出るのだけは避けたい。
黙りこくる俺を見て、男は興奮気味にこちらに迫る。
「そして、確信を得たのは君に宿っている加護だ!」
その言葉に心臓の鼓動が跳ね上がる。
まさか勇者の加護はバレている?
俺が地球に来てから、勇者の加護を使ったのは最近戦った虫型のイレギュラーの時だけだ。
デスパレードの時の戦闘は、聖剣の力で切り抜けたし、序盤は身体強化しか使っていなかった。
虫型のイレギュラーとの戦闘中は、身体強化に加えて五感強化も併用して戦っていた。
近くに誰もいないのは確認してから戦っているし、遠くから見られたとしても気がつくはず……。
そこで咲の言葉を思い出した。
俺は学び舎に向けて設置されていたカメラの存在に気が付かなかった。
いや、気が付かなかったというより、意識の外にあったと言う方が正しいか……。
この世界に使われてある機械には、大なり小なり魔力が宿っている。
機械の類いは、魔石の一部を利用して動いているから当然なのだが、それらの全てを索敵範囲に置くのは不可能。
何しろ数が多すぎる。
道路を走る車や、携帯電話一つ一つに意識を割くわけにはいかない。
もしその時の映像が撮られており、俺を脅しに来たのなら、こいつの近くにエアリアル出身者がいるのは確かで、俺に恨みを持っている可能性が高い……。
「俺が加護を持っていると誰に聞いた?」
「誰に聞くまでもない。君が翻訳の加護を持っていることは全ての国民が知っているぞ。愚かな国民は、その情報から君の素性まではいきつかなかったようだがね!」
……翻訳の加護?
聞きなれない言葉に一瞬戸惑うも、創造神から受けた言語理解の力のことを言っているのだろう。
話し言葉は理解出来るが、文字は読み取ることが出来ない中途半端な力だが、人知を超えた力だ。
だがそれは、理紗や鏡花が共同で使っている、バレたらいけないことリストの中にその力は載っていなかった。
その理由も鏡花から教えられた記憶がある。
「翻訳の力を付与出来るドロップアイテムがあるだろ。そのことを言っているのか?」
「翻訳のオーブは欠陥品だよ。その力を受けた者は皆、発狂して死んでいった。正常な者も、精神が元から崩壊していた者も同様にね……。呪いのオーブの研究は日夜続けられているが、成功例はない。まあ君を除いてだが……」
男は俺がそのオーブの力を使って翻訳出来ていると思っているのだろう。
まあ別の言語を使っていた人たちに言葉が通じていたようなので、そう考えるは自然で、俺の力もそのドロップアイテムを使って誤魔化すように言われてはいた。
そして、この時点でエアリアルを示唆するような言葉はない。
「別に成功例があったところでお前に関係あるのか? たまたまそのドロップアイテムと相性が良かっただけかもしれないだろ?」
「相性なんて適当な言葉で済まされるわけがないだろ! こっちは何度実験を繰り返してきたと……。失礼、少し取り乱した。未来ではオーブの研究が進み成果を得ており、それが君だ。ギルドが君の素性を隠している理由もそれで説明出来る。ギルドは翻訳のオーブを見つけ次第、破棄するように規則を作っているからね」
自己責任で自分に使うのなら問題はないが、持ち帰って売るのは違法なドロップアイテムがある。
その中に男が言っている翻訳のオーブも入っていた。
その規則はここ最近に出来たものらしいが、男はその規則に不満を持っているような言い方だった。
そして男の言う研究とは何だろうか?
少なくともその規則が出来た後からは持ち帰ることは出来ないはずなんだが……。
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