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139話 模擬戦

 

 飛び込んできた黒色の男は、刀を袈裟斬りに斬り払う。

 かなえからの追撃も意識の端に置きながら、ハンマーで刀を迎撃すると、水の塊を殴ったような感触とともに、男ごと破裂した。


 男の残骸が飛び散り、俺の体に降り注ぐ。

 粘度の薄い泥のようなその感覚に眉をしかめながら、手で払うが……。


「落ちない?」


 服に付着した部分は分かるが、手の甲や首筋といった肌についた部分を擦っても色が落ちる様子はなかった。

 皮膚を削ぎ落とせばなんとかなりそうだが、流石に緊急事態でもない中でそこまでする必要性は感じられない。

 この魔法を受けて脳裏に真っ先に浮かんだのは、毒による追加効果。



 ならばあまり長期戦になるのも良くない。


「今度はこっちが攻めさせてもらう……ぞ?」


 ハンマーの素振りをして攻撃の意志を伝えると、かなえの作り出した追加の絵を見て困惑する。


 先ほどの芸術性を感じられる精巧な絵とは違い、子供の落書きのようにも見えるそんな絵が無数に浮かんでいた。

 豚のような、はたまた犬のようにも見える絵が体を低くして伏せており、空には羽がついたお茶碗のようなものが浮かんでいる。

 そして極めつけは、人の頭ほどある無数の蜥蜴の群れがかなえの周りを覆いつくしている。

 そしてその数は今もなお数を増やしていき……。


「そろそろいっかな。レオさん、もしかしたらこの勝負、私が勝っちゃうかもね」


「面白い! そんなに自信があるのならやってみるといい!」


 かなえの号令に従い、黒の軍勢がこちらに突撃してくる。

 かなえの近くに控えているものは一体もおらず、少々気を抜きすぎではないだろうか?


「そんな余裕を見せていいのか? 自分の身を守る盾くらいは残してもいいだろ」


「どのみちレオさんがこっちに抜けてきたら何もできないよ。ハンマーを投げられたらそこで終わりだけどね」


 ……かなえのやつ分かってて言ってるな?

 投げつけて攻撃なんかすれば、力加減を間違ってしまう可能性があるし、そもそも投げつけたハンマーに能力が発動するのか分からない。

 どちらにせよ、こんな武器を用意してもらっておいて、大怪我させてしまっては申し訳が立たない。


 飛び込んでくる四足歩行の絵にハンマーを振るうと、先程の刀を持った男の最期を辿るように破裂し、俺の体に降り注いだ。

 ……何か違和感を感じる。

 空を飛ぶお茶碗を破壊しながら、唇を噛む。

 変わった戦闘方法だが、クラフト型の魔法使いの相手は何度か経験している。

 だが、胸のざわめきが収まることはない。


「そういうことか! 道理で上から攻撃してくると思ったぞ」


 動物型も、空飛ぶお茶碗も、全て攻撃を仕掛けてくる時は、俺の真上から。

 そこで試しに向かってくる気配のない、蜥蜴型に攻撃を仕掛けたところ、それは起こった。

 地面に落ちるはずの黒い液体が、俺の体に飛んでくる。

 明らかに意図した動作。

 不自然に動く液体は、俺のハンマーに吸い込まれるようにして付着した。

 そして同時に気がつく。


「重くなってるな。毒ではなかったか」


「ネタバレ早いよ。もうちょっと溜め込みたかったんだけど……」


 かなえの言葉に確証を得る。

 付着した量によって重さを付与する力ってことか。

 いい能力だ。一人で戦うには少し物足りないが、複数人で戦う探索者であれば、非常に使い勝手のいい力とも言える。

 そこで気になるのは、ハンマーと俺の体の重さの違い。

 明らかにハンマーの方が重さが増えているようにも感じる。


 でもまあ、毒ではないと分かったのなら……。

 蜥蜴型の群れの中に突っ込んで、地面を擦るようにハンマーを奔らせる。

 今までより少々強めに放たれた一振りは、蜥蜴型の群れを蹂躙し、黒色の液体をかなえの元へと吹き飛ばす。


「嘘! それはズル!」


 ズルも何も多少攻撃を強めたところで、かなえに怪我をする心配はないのだから、文句を言わないでほしい。

 かなえは黒色の液体を操作することができず、そのまま体で受け止めた。


「──ぶへっ! うう……乙女にあるまじき声上げちゃった。降参します。もう戦えないよ」


 数十体分の液体を体に浴びたかなえは、うつ伏せになって地面に張り付いている。

 そして生き残っていたかなえの魔法が消え去ると、俺と、かなえに着いていた液体もなくなった。


「お疲れ。面白いものを見せてもらった」


「もうちょっとやれると思ったんだけどなあ……」


 悔しそうに呟くかなえに手を差し出すと、勢いよく立ち上がり、残りの生徒に向けて発破をかける。


「男子連中は周りに格好いいところ見せるチャンスだよ! ここで男見せといたら、来年のバレンタイン、嘆くこともないかもね」


「つ……次は俺だ! いざ尋常に勝負!」


 その言葉に乗せられた男子生徒が、手にダンジョン武具らしき槍を持って向かってくる。


 そこからしばらくは挑戦者が途切れることはなかった。


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