132話 春が来たぞー
次の質問はおどおどしている茶髪の少年だった。
俯いてるせいか目が隠れてしまっており、どこか申し訳なさそうに質問する。
「あの……探索中に他のパーティーとトラブルになった場合、どう対処するのでしょうか?」
以前、理紗から聞いたことがあるが、この学校に通う生徒は、新宿ダンジョンをメインに探索する。
それは学校に近いからなのもあるが、一番の理由は他者に邪魔されずに探索出来ることにある。
新宿ダンジョンは、一階の扉の番号ごとに分岐されるため、他のパーティーの介入もなく、戦利品を横取りされる心配もいらない。
俺も他のダンジョンに潜った経験がないから、上手く教えてやることは出来そうにもないが、せめて何か……。
「もし仮に、面倒な手合いにちょっかいをかけられたら、モンスターの餌にしてしまえばいい。二、三人、殺ればそいつらも……違うな。ただの冗談だ。そんなことをすれば理紗に怒られるから、みんなも気をつけるように」
俺の話を遮るように、理紗がわざとらしく大きな咳払いをする。
理紗に視線を向けると、小さく首を振りながらこちらをじっと見てきたため、慌てて訂正した。
「あの、僕のパーティーに北条さんはいないんですけど……」
「それもそうだな。まあ、自分に非がなくトラブルになったのなら、相手が自分を舐めてる証拠だ。力の差を見せつけるか、それが無理なら絡むのは面倒だって相手に思わせるしかないな」
次は派手な化粧を施した金髪の少女。
少女は妙に前屈みになりながら猫撫で声で質問する。
「えっと〜、レオさんの好きなタイプは何ですか〜」
「接近戦だ。中でも身体強化を使った戦闘が一番楽しめる。次の質問」
「えっちょっと待って。そんな話じゃ……」
金髪の少女が何か喋ろうとしたが、冬梅は次の生徒を指名する。
「プライベートな質問はやめてください。そんなことを答えるためにレオさんは、ここに来たわけではありません」
「別にあれくらいは構わんぞ」
「いや、駄目です。ただでさえ全員分聞くことができないんですから」
ピシャリと俺の言葉は却下され、次の生徒を指名していくが、多かった質問が身体強化に関することだった。
この学び屋でも、吸精種の魔石を使ってのトレーニングを実施しているらしく、魔力操作する感覚や、こつを聞いてきた者がいた。
魔力操作の感覚は人それぞれで、ほとんど無意識に操れる俺の感覚を説明しても意味がない。
なので具体的な説明はさけるようにしていたんだが、冬梅からの要望もあり、後半に予定されてある訓練で身体強化を見せる時間をとることになった。
後半は生徒との模擬戦を行う予定で、身体強化を使えない生徒が相手のため、こちらも制限をかけようかと考えていた。
別に使うのは構わないが、五感強化も使ってほしいなどと求めるのは、どうなのだろう?
五感強化のデメリットの説明をもう一度しても、生徒たちはそんなことを考えてないように、瞳を輝かせている。
ここで横に座っていた冬梅の携帯が振動する。
冬梅は一言謝罪すると携帯を取り出して確認する。
「……すみません。昼から使う予定の訓練室にトラブルがあったようです。少し席を外すので質問の続きお願い出来ますか?」
「大丈夫だ。任せてくれ」
離れていく冬梅は、真っ先に理紗たちの元へ向かい何かを話している。
そしてお互い頷きあうと、こちらに視線を送る。
……気まずい。
こそこそと話す三人に、思わず五感強化を使って聞きとろうと考えてしまう。
悪口を言われているのではないかと不安になりながら、話が終わるのをじっと待つ。
彼女達は一分程度話すと、なぜか熱い握手を交わして別れた。
一人にされて、少し緊張しながらも次の生徒を指名する。
次の少女は、つり目が特徴の少女だ。
指名された少女は、一度入り口の扉を確認し……。
「レオさんはいつまで今のパーティーでいるんですか? 他のパーティーに移籍しようとは考えてますか?」
「──ちょっと! プライベートな質問するなって言われてたでしょ!」
その質問に理紗が声を上げるが、周囲の同意は得られなかった。
早く答えてくれと要求する他の生徒に、理紗の言葉は届かない。
俺としてはその質問に答えられない理由はない。
理紗に大丈夫だと告げると、質問に返答する。
「二人と一緒になりたい奴にはすまないが、今のところ理紗たちと別れる理由はないな」
冬梅の言葉が本当なら彼女はクラスの憧れの存在だ。
だから、彼女と同じチームを望む者はたくさんいるのだろう。
しかし、俺の言葉を聞いた一部の少女から歓声が上がる。
「それって! それって! 理紗ちゃんを離さないぜってことですか?」
「馬鹿! 何聞いてるの──」
理紗の近くにいた、前髪を切り揃えている少女が、興奮気味に聞いてくる。
理紗が止めようとするが、少女の仲間が理紗の元へ集まり口を塞いだ。
「是非! 後学のために是非! 後生ですから!」
「……俺から離れる気がないってだけだ。二人が離れたければ何も言わん」
「つむぎんも⁉︎ まさかそこまで手が早いなんて……」
驚愕の声を上げる少女は、理紗と同じように女性陣に拘束されている紬に目を向ける。
「……つむぎん、私は悲しいよ」
少女は、顔を赤くして首を振っている紬の肩に手を乗せる。
紬も何か言おうとするが、口を押さえられているため何も喋れないようだ。
「大丈夫。私は二人の味方だから」
少女はそう言うと机に向かい、紙に何かを書き殴る。
そして紙をこちらに差し出すと。
「私は二人の友人一号をやらしてもらってます、内海かなえです。どうぞ気安くかなえとお呼びください」
「何だこの紙は?」
「私の実家の住所が書かれております。式を挙げる際は是非こちらにご一報いただければ、他には出来ないほどのサービスを用意させていただきます」
「よく分からんが、くれるのなら有り難くもらっておく」
もらった紙に目を落とすと、住所と、電話番号らしき数字の羅列が書かれてあった。
サービスしてもらえるならいいかと、貰った紙をとりあえずポケットにしまう。
「理紗ちゃんにも春が来たわ!」
嬉しそうに手を叩くかなえは拘束を抜け出した理紗に蹴り飛ばされた。
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