131話 どうして笑うんだい?
「質問がある方は手を挙げて下さい」
探索者としての紹介もそこそこに質問に入る。
冬梅の言葉で理紗たちを除いて、殆どの生徒が挙手した。
最初に選ばれたのは、剃髪頭の少年だった。
選ばれた少年は立ち上がり。
「弱い探索者が教職に就くのはどう思いますか?」
その質問に周囲から笑いが漏れる。
周りの反応、質問の意図を考える。
……なるほど、把握した。
「全ての教え子が強者の戦い方が出来るわけではない。弱いなら弱いなりの戦い方があり、それは強者には分からないものだ」
『給料泥棒じゃん!』
『いる価値あんのそれ!』
周囲から野次が飛ぶ。
それを受けた少年は、おちゃらけたように笑い返すが……。
「力がないことを卑下する必要はない。お前も努力すれば一端の教員になれるはずだ。今からそんな言葉で夢を諦めるようなことはしない方がいいぞ」
俺の応援を受けた少年はポカンと口を開けて固まり、徐々に顔を赤くする。
感動で泣きそうになっているのだろう。
あまりこういったことはしてこなかったが、俺には人を導く才能があるのかもしれない。
様子が気になり、ちらりと理紗の方に視線を戻すと、何故か理紗は頭を抱えており、紬が肩に手を乗せて何か囁いている。
教育者として優秀すぎるがあまり、引き抜きを心配しているのかもしれないが、講師として生計を立てるつもりはない。
こちらに向き直った理紗たちに、分かってもらうようにアイコンタクトを入れるが、二人から返ってきたのは大きなため息だった。
だが、質問を投げかけた少年に対する周囲の反応は、冷ややかなものだった。
馬鹿にするように笑う者、肩を震わせて必死で笑いを堪える者、発言した少年を好意的に見る者はいなかった。
大言壮語なことを言い放ったわけでもないのに……。
これでは少年が可哀想だし、次の質問もしにくくなるだろう。
だから俺は少年を小馬鹿にする者たちに注意する。
「人の夢を笑うものではない。さっきの質問は身の丈にあったもので、何ら変なことは言ってないだろ」
笑いを堪えていた者が吹き出す。
まだ注意が足りないか。
口を開こうとしたが、その前に俯きながら震えていた少年が叫ぶ。
「俺が教師になりたいって話じゃねえよ!」
少年は瞳を潤ませながらこちらを睨みつける。
どうやら俺の言葉に感激して、震えていたわけではないらしい。
「それはすまなかったな。てっきり自分のことを言っているものかと思ったんだ」
「嫌味ったらしく言いやがって! どう考えてもそっちの話だって分かんだろ!」
剃髪の少年は冬梅を指差す。
俺の対人経験のレパートリーの少なさを知らないだろうからしょうがないが、さっきの話でそこまで理解しろとは無茶を言ってくれる。
こちとらエアリアルから来る前は、命を狙われるか、嫌われるかのほぼ二択しかなかったんだぞ。
「分かった。分かった。お前らがどう考えてようが、普段の立場であれば正直どうでもいい。だけど講師として言わせてもらうとすれば、自分の力じゃなしに、他人の功績を使って人を見下すのは戦士にあるまじき行為だぞ」
「……戦士?」
少年は俺の言葉に首を傾げる。
……ここまで言っても分からんか。
「そうだ戦士だ。俺はお前らを一人前の戦士にするためにここに来た。お前らの腐った性根は俺が叩き直してやる。そして俺と共に、魂が昇天するほどの戦いを求めて……」
熱く語っていた俺を止めるように、冬梅が大きく咳払いをする。
そして辺りを見回すと。
「質問の時間は限られています。あなたたちがどんな質問をしても結構ですが、世界で見てもトップクラスの実力のあるレオさんに、質問する内容なのか考えながら手を挙げて下さい」
再び丸めた紙がこちらに投げ込まれる。
中を開いて確認すると。
『へんなこと、はなしてたら、とめるから』
こちらにジト目を向ける理紗と、首を横に振る紬。
色々考えた結果、俺は静かに頷くのだった。
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