130話 講師勇者
冬梅がどうしても俺に聞いて欲しいと、説明を始める。
高校卒業後、鏡花以外の力不足を理由に一度パーティーを解散。
冬梅ともう一人の魔法使いは教育免許を取るために大学へ。
アイテムボックス持ちの少女は、中層をメインに潜っていたパーティーに加入することになった。
そして一月も経たぬうちに、彼女は帰らぬ人となる。
パーティーに負傷者が出たことで攻略を諦め、退却していたところ、モンスターの群れの襲撃に遭い、彼女は必要な犠牲として切り捨てられた。
新入りで関係値も低く、命をかけて守る必要のない存在。
彼女がモンスターに食い殺されるのを、鏡花たちパーティーメンバー全員が配信で見ていたらしい。
仲間の死に様を見せられ、残るパーティーは命からがら帰還。
残るパーティーメンバーも、そのことがトラウマになって引退した。
「戦う術を持たない凛子がすぐに新しいパーティーに入ることが出来た。そのおかしさに気がついてあげるべきでした。私たちのパーティーは、鏡花さんにおんぶに抱っこでしたが、まがりなりにも下層に到達することが出来ました。そのことが認識を狂わせてしまったんです」
「他にその娘を誘う理由があったのか?」
己の判断を悔いるように冬梅は、少し俯き、唇を噛み締める。
視線を戻した冬梅の瞳は涙で滲んでいた。
「鏡花さんです。彼らは凛子の先にある鏡花さんを見ていた。鏡花さんを手に入れるために凛子を勧誘したと言ってもいいでしょう」
その言葉に俺は何も言えなかった。
彼女を慰めれるような言葉など、考えても出てこない。
冬梅は涙を拭い、置き時計に目を向ける。
「そろそろ時間ですので、詳しい話は講習の後で話します」
「別に話さなくてもいいぞ。聞かれたくないことの一つや二つ、誰にでもある」
「いえ、聞いてください。特にあなたには知っていて欲しいんです」
冬梅はじっと俺の目を見つめながら伝えてくる。
この短時間で何をそんなに信用してくれたのか分からないが……。
彼女が案内した場所はかなり大きめの部屋だった。
扉を開けると横長の机が並び、二百人はいようかというほどの生徒がこちらに向かって振り返る。
好奇の視線に混じり、悪意を感じるほどの鋭い目つきでこちらを睨む者がちらほら。
何かしたのだろうか?
もしかしたら、さっきの男と同じように鏡花に会いたかったのかもしれない。
冬梅の誘導に従って、部屋の奥に向かう。
奥には机が一つ置いてあり、その横には椅子が二つ。
机の上には四角い箱のようなものが置かれてあった。
冬梅は四角い箱に付いているボタンをいくつか押し始めた。
「これが拡声器になっております。今、起動しますから椅子に座ってお待ち下さい」
拡声器か便利だな。
冬梅が声を出しながら音量を調整しているのを見て、ふとある考えが浮かぶ。
ここでなんちゃってドラゴンブレスをしたらどうなるのだろうか?
……いや、駄目だ。気になったとしてもそれはやってはいけない。
誘惑と闘いながら待っていると、前方から紙切れが飛んでくる。
紙を取ると中にひらがなで文字が書かれており……。
『へんなことかんがえないで、おとなしくして』
投げてきた方向、俺から見て正面の最前列に理紗の姿があった。
その隣には苦笑いを浮かべる紬の姿も……。
「おお、二人ともいたのか!」
立ち上がり二人の元に歩いて行く。
朝方買い、二人のために残しておいた分の肉まんを取り出すと、机の上に置いた。
「これ、今日買ったんだが美味しかったぞ」
理紗と紬は顔を赤くして肉まんを素早い動作で回収する。
喜んでもらえて何よりだ。
だが二人は食べる様子はなく、あげた肉まんは全て紬のアイテムボックスに収納された。
……今はあんまりお腹が空いてなかったのかもしれないな。
俯く二人にお腹が空いたら食べてくれ、と告げると自分の席に戻る。
「準備が出来ました。あの、別に駄目ってわけではないんですが、今日レオさんは講師役で来ておりますので、理紗さんたちとは生徒と講師の立場で接した方がいいかもしれません」
冬梅は俯く二人に目を向けると、こちらに注意する。
その言葉で気がついたが、他のみんなの分を買ってこなかったことを失念していた。
あんな渡し方をすれば、他の生徒に羨ましがられてしまうのだろう。
冬梅に謝罪をして、座り直す。
まずは冬梅から俺に対する紹介が入り、すぐに生徒たちからの質問を開始した。
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