129話 依頼の説明
まず最初に話したのは今日の予定についてのことだった。
実戦的な内容は後半にやるらしく、初めは生徒たちの質問に答えるような形式になるらしい。
生まれてこのかた、学校で学ぶような勉強はしてこなかったため絶望を感じていたのだが、冬梅の説明によると探索についての質問が主となっているらしい。
それならはまだ誤魔化しがきく可能性があり、分からないことがあっても冬梅がフォローしてくれるみたいなので、恥を忍んで頼らせてもらおう。
依頼の評価は下がるだろうが、後半の戦闘訓練で挽回すればいい。
予定の時間まで後三十分ほど。
冬梅は紅茶のお代わりを淹れながら申し訳なさそに謝罪してきた。
理由は先程突っかかってきた男に関係することで、俺が教えるクラスには男と同様の立場の者が後一人いるらしい。
不満があれば噛み付く狂犬のように思われているのか、今日一日くらい適当にあしらって終わらせると言っても冬梅は首を振る。
「違います。教師に対して強気な態度に出ているのは、ほとんど全員なんです」
「さっき、高貴なところの身内は二人だけって言っていただろ?」
俺の言葉に冬梅は説明を、始めるが原因は驚くべきことだった。
まず探索者学校の教員は、最前線で探索をしている者がなる仕事ではない
ここにいる教員は、精々二流、三流止まりの探索者が多いと冬梅は自嘲する。
だがそれだけでは同じ立場の生徒が増長する理由にはならない。
次に冬梅から出てきた名前に俺は耳を疑った。
「生徒が反抗的な態度を取るのは、あなたもよく知る理紗さんと、紬さんの存在が大きいんです」
「……あの二人はそんなに不良だったのか」
俺の前ではそんな態度は見せたことがなかった。
他人と話す時は口調は柔らかく、丁寧に対応していた二人にそんな裏の顔があったなんて。
もしや最近テレビで放送している不良アニメに憧れているのかもしれんな。
あの年頃は何でも真似したがるらしいし、理紗たちがアニメに出てくるような、奇怪な髪型にしてきたらどうしようか?
少し見てみたい気もするが……。
冬梅は黙りこんだ俺を見て、慌てた様子で訂正する。
「もちろん、あの二人が悪いってわけではないんです。理紗さんも紬さんも良い子ですし、あの二人だけは、反抗的な態度はとったことがありません」
「それじゃあ何で二人の名前が出てくるんだ? 関係ないのだろ?」
「……それは、あの二人が優秀だからです」
冬梅の吐き出すように呟かれた言葉に頭が混乱する。
二人が優秀だから周りの人間が反抗的になる?
二人が反抗的になるのならまだ分かるが、何で関係のない周りが増長することになるんだ?
冬梅はもう一度二人は悪くないと前置きを加えると。
「私も新卒でここに入って一年目。経験は浅いですがここは母校になります。在学中、こういった例も少なからずありました。飛び抜けて優秀な生徒がいる時に稀に起こることがあるんです」
「生徒が言うことを聞かなくなることが?」
冬梅は軽くため息を吐きながら頷く。
「理紗さんと紬さんは天才です。それも教員が教えることができないほどの……。考えてみてください。教員よりもレベルの高い生徒がいる。それを見せられたらどうなります?」
そうなれば、教師の威厳もあったものじゃないだろう。
なんせ教えるはずの人員が役に立たないのだ。
それを常に見せられたら、教師は大したことないものと、思われるのも仕方がないが……。
「それで他の生徒の実力が上がるわけではないと思うが?」
「そうですね。ですが時間が経つにつれて、そんな空気感が出てくるんですよ。そして教員はそれを止めることはできない。……まあ、理紗さんたちが荒れていない分、これでも幾分かマシなんですけど」
冬梅はもう諦めているのだろう。
どこか今の状況を受け入れているようにも見えた。
悪いのは教える力を持たない私たちなんですと、冬梅は苦笑いを浮かべる。
後少し時間はある。
前から気になっていたことを、鏡花のパーティーメンバーである冬梅に聞いておこうと口を開いた。
「鏡花はもうダンジョンに潜らないのか?」
「どうでしょうね。彼女次第だとは思いますけど……。彼女に相応しいパーティーと出会えたら、探索者を再開すると思いますよ。鏡花さんには探索者が天職みたいなところありますからね」
これ、鏡花さんに言っちゃダメですよ、と冬梅は笑いながら答える。
本人も実力があるし、年齢による限界がきているわけでもない。
だからこそ分からなかった。
「冬梅がダメでも、パーティーメンバーはもう二人いたんだろ? そいつらと一緒になればすぐにでも再開出来るんじゃないか?」
その言葉に冬梅は顔を曇らせ……。
「それは無理です。もう一人の魔法使いは私の夫で、鏡花さんについていけるような実力はありません。残りの一人は……」
冬梅の言葉が止まる。
言い辛そうにしている彼女を見て謝罪する。
「すまん。変なことを聞いたかもしれん。今の質問は忘れてくれ」
いくら気になるからといっても、首を突っ込みすぎた。
冬梅は俺の言葉に小さく首を振り、感情を抑えたようなどこか無機質な声で話し始める。
「いえ……大丈夫です。せめてレオさんは知っておいた方がいいでしょう」
「俺は赤の他人だ。そんなことはない」
「私が話しておきたいんです。気にしないでください。もう一人の仲間、運び屋をしていた彼女は、専門学校を卒業後、別のパーティーに入り、ダンジョンに置き去りにされて死亡しました」
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