128話 学校に到着
朝飯がてらに道中にあったお店で買った肉まんをつまみながら、理紗が通う学び屋に入る。
周りには理紗たちと同年代に見える少年少女たちがおり、こちらに視線を送っている。
特に男の方は何か睨みつけているような気がするが……。
「何でそんなに急いで食べてるんだよ。喉に詰まっちゃうぞ」
「理紗が歩きながら食べるのは、あまり行儀が良くないと言っていた。睨まれてるから早く食べないと」
鏡花も俺と同じく肉まんを食べながら周囲に目を向けると……ニヤリと笑みを浮かべる。
「抱きついてくるな。肉まんを落とすとこだったぞ」
「ごめん、ごめん。ちょっと面白そうだったから。うちもまだまだ有名だってことだね」
「何の話をしてる?」
「レオは知らなくていいよ。それより、早く食べないと、後二つ残ってただろ?」
鏡花の言葉で持っていた肉まんを急いで完食し、次の肉まんを亜空間から取り出す。
大口を開けて肉まんに食らいつこうとすると……。
「ここに何をしに来た! 部外者は立ち入り禁止だぞ!」
一人の青年が声を張り上げる。
視線の先には……俺?
「部外者じゃないぞ。今日は依……」
「鏡花さん! 駄目じゃないですか! いくら鏡花さんといっても、部外者は──」
「馴れ馴れしいんだけど、あんた誰?」
俺の話は聞く気がないのか、男は鏡花に声をかける。
すると、さっきとは一変、どこか不機嫌な声色で鏡花が聞き返した。
男は鏡花の圧力にたじたじになりながらも、言葉を続けようとするが、その前に奥にある建物から一人の女性が駆け寄ってくる。
女性は黒髪で、部分的に淡い水色に変色しており、スラリと細い体は鍛えているようには見えない。
年齢は鏡花と同じくらいか?
あまりこのくらいの年の違いは分からないから、違うかもしれないが……。
仮に、ここの教員だとすれば魔法を教えているのだろう。
「……ちょっと待ってください。その人は関係者です」
「おひさ、美都! 元気してた?」
「お久しぶりです鏡花さん。今日は依頼を受けて下さり、ありがとうございました」
「そんなに他人行儀にすんなって。今日はレオを連れてきたから、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
女性は鏡花の友人なのか、やけに親しい口調で話している。
女性はこちらに体を向けるとお辞儀をする。
「初めまして。私はここの教員をしております、冬梅美都と申します。今日はご依頼を受けてくれまして本当にありがとうございます」
「こちらこそよろしく。俺の名前はレオだ。好きに呼んでくれ」
「ええ。ではレオさんと呼ばせていただきます」
挨拶を交わす二人を見ながら鏡花が説明を加える。
「美都はうちの元パーティーメンバーだ。優しくしてやってくれ」
鏡花はそう言うと手を離し、俺から離れる。
それを見た冬梅は不思議そうに鏡花に問いかける。
「もう帰るんですか? 校長と少しくらいお話ししたら……」
「やだよ。これ以上講習依頼を増やされたら、たまったもんじゃない。仕事を振られる前にうちは帰る」
言い終わると鏡花は、こちらにウインクを送り、背を向ける。
そして早足に元来た道を帰っていった。
「そんなの聞いてないぞ! 今日は鏡花さんが来る日だったじゃないか!」
顔を真っ赤にしながらまくしたてる男は、さらりとした黒髪を揺らしながら、冬梅に詰め寄る。
冬梅は嫌そうな表情を浮かべながら……。
「さっき鏡花さんに注意されたでしょう。鏡花さんは男性に名前で呼ばれることを嫌っています」
「そうだったのか?」
それは申し訳ないことをした。
鏡花と呼んでくれとは言われたが、もしかしたら無理をしていたのかもしれない。
俺の言葉を聞いた冬梅は大きくため息を吐くと。
「……これは苦労しそう。レオさんはそんなこと気にしなくていいと思いますよ」
「何で名前を呼んではいけないんだ。僕の父親は……」
「それを鏡花さんの前で言えるのならそうしなさい。それよりあなたは授業が始まるから早く登校してください。このままでは遅刻をとられますよ」
不満そうに訴える男に冬梅は冷たく言い返す。
男は舌打ちを残して建物の中に入って行った。
「ごめんなさい。彼、父親がギルドの幹部で、少し傲慢なところがあるんです。今日の講習で何かあったら私に言って下さい」
「権力者の子供は得てしてそんなものだろう。気にはしないさ」
謝罪する冬梅にそれだけ返す。
逆に権力者の子供がぺこぺこ頭を下げる方が問題だろう。
その言葉に冬梅はくすりと笑う。
おかしなことを言ったつもりはないんだが……。
そして冬梅に案内されたのは小さな部屋だった。
講習を受ける生徒はおらず、机とソファーがあるだけ。
「授業まで、まだ少し時間があります。少し私とお話ししましょうか?」
「俺はいいが、そっちはいいのか? 他に仕事があれば、俺のことは放置してくれてもいいんだぞ」
「今日一日はあなたについて回るのが私の仕事です。私も鏡花さんが選んだ人がどんな人か気になります。迷惑でなければ授業が始まるまで話をしてても構いませんか?」
俺が、講習を教えるに値するか確かめたいのだろう。
もし俺が失敗すれば、依頼主である、鏡花の顔も潰すことになりかねない。
今までにない緊張感のなか、冬梅との対話を始めた。
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