127話 恋人繋ぎ
翌朝、鏡花に連れられて学校に向かう。
皮鎧は身につけておらず、理紗が買い置きしていた黒の長袖シャツと、下はゆったりとした余裕のあるズボンだ。
これは理紗や紬が定期的に買ってきて家に置いて帰っており、段々と量を増やしていっている。
料金は、パーティーとしての活動資金から捻出されているらしく、お金を払うと言っても受け取ってはもらえなかった。
パーティーの活動資金は最近になって決まったことで、各々の配信で稼いだ金とは別に、魔石の売却額から一割を別の口座に保管していく。
今後パーティーで何か必要なものが出来ると、そこから優先的にお金を下ろして購入するらしい。
基本的にパーティーで稼いだ分の魔石から貯金されていくため、デスパレードで稼いだ魔石と、スタンピードで調達した素材は全て俺の持ち分。
流石に俺だけを優先するのは忍びないと声を上げたのだが、『あなたが毎日、服を変えるようになったら考えるわ』と理紗から一蹴されてしまい紬もそれに同意している。
確かに二人は会う度に服を変えていたりするが、一日中家の中でじっとしていると、ほとんど汗もかかないし、そんなに臭うものでもないはずだ。
それを証明するために、試しに二人に臭いを嗅いでもらおうとするが、セクハラだと却下された。
だからこれ以上迷惑をかけないようにするために、出来るだけ服を変えようとしているんだが……。
「今日は変えたばっかの服なのか。うちと会う時は一週間くらい使った服を着てきてほしいな」
「理紗に怒られるからそんなことしないぞ」
どこで聞きつけたのか、鏡花は逆に服を変えないようにとお願いしてくる。
その提案は俺にとって大変有難いことなんだが、残る二人が断固拒否の構えのため、大人しく服を変えるしかない。
エアリアルより地球は、衛生観念がしっかりしているため、やらなくてもいいことまで気を遣う必要がある。
徐々に慣れていけばいいのだが、果たして俺はここの生活に慣れる日が来るのだろうか?
闇討ちされることもなく、罵声を浴びせられることもない、そんな生活に。
「……何をしている?」
「手握ってる。レオが迷子にならないようにな」
鏡花は理紗たちとは違い、少し乱暴に手を取ると指と指を挟むようにして握りこむ。
そしてどこか楽しそうに身を寄せてくると、耳元で囁いた。
「あんまり無理するもんじゃないぞ。地球はあっちとは全然違うからな。嫌なことはちゃんと嫌って言えばいい。理紗たちの言い分を全て聞く必要はないんだ」
「それは……」
鏡花の忠告に思わず言葉が詰まる。
確かに色々と新しいルールや約束事が出来ていっており、守りきるのは大変だ。
だが、それでも……。
「二人が俺のために言ってくれているのは何となく分かってる。だから出来るだけ守っていこうと思う」
鏡花は俺の顔をじっと見て、そっか……と小さく呟くと。
「そいつは残念。レオの匂いは好きだったんだけどな。下層に潜るまでしばらくお預けか」
「人の趣味にケチをつけるつもりはないが、ギルドの中には俺よりも体臭が強いやつはゴロゴロいるぞ。そいつらに頼めば……」
「絶対やだ。うちはグルメなんだよ」
「鏡花は人を食べるのか?」
「時と場合によるね。相手がレオだったら我慢できないかも……」
冗談混じりに答える鏡花は、からからと笑いながら歩みを進める。
俺はその言葉を聞いて少し考え込むと……。
「俺は肉質が硬いと思うんだ。だから俺を食べてもあんまり美味しくないと……」
「や〜だよ。理紗の奴に安心するのはまだ早いって連絡したばっかだからな。積極的に攻めていくから覚悟しろよ」
流石にこれは冗談だと思うが、念のためスタンピードで回収した肉は鏡花にもあげることにしよう。
その後は取り止めのない話をしながら、理紗が通う学舎に到着した。
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