125話 ダンジョン休止中の依頼
「講師なんて俺は出来ないぞ。人に何かを教えれるように見えるか?」
エアリアルと比べて、遥かに教育水準が高い地球で俺に出来ることはないだろう。
むしろ俺の方が二人に教えてもらっている立場だというのに……。
「講師って言っても、勉強を教えるわけじゃない。レオに頼みたいのは、モンスターとの戦い方や心構えみたいなものを生徒に話してほしいんだ。後これもね……」
鏡花は自身が持っていた小さなバッグから吸精種の魔石を取り出す。
手に持つ魔石は光を放っておらず、魔力操作が出来ている証左だった。
「……身体強化か。別に構わんがまずはそれが出来るようにならなければ話にならんぞ?」
「師匠! いつの間に出来るようになったの?」
「あんたと同じくらいの時かな? あの配信、うちも見てたから。残るは理紗だけだけどどうする? うちがやり方教えてやろうか?」
煽るように話す鏡花。
笑みを浮かべた紬は吸精種の魔石を取り出して理紗に手渡すと。
「……二人に煽られる前に出来て良かったわ」
その言葉通り理紗が持つ魔石は光を発しておらず、鏡花は不満げな声を上げる。
「えー、しばらく自慢してやろうと思ってたのに」
「……だから頑張ったんですよ。二人に煽られたら手が出そうになりますからね」
ため息を吐く理紗は俺の方に向き直り、屑魔石を掲げて見せる。
「次のステップ教えてよ。身体強化まで早く持っていきたいの」
理紗から屑魔石を受け取り、魔力を操作する。
屑魔石は高速で点滅し、それを見た三人は首を傾げる。
「それ、失敗してない?」
理紗の言葉に残りの二人も頷く。
魔石に吸収されているから、失敗と言えば失敗だが……。
「魔石が吸収するより光が灯るのが早いだろ? これはわざと魔石に魔力を送っているんだけど……もしかすると理紗たちには必要ないかもしれんな」
「まだその段階じゃないってこと?」
少しむくれる理紗の言葉を首を振って否定する。
「三人が魔法使いだからだ。魔法が使えるのなら、魔力を外部に放出する感覚は身につけている。なら後は体に魔力を留めるだけだからな」
「失敗しても怪我しない?」
紬は俺の話を思い出しているのだろう。
少し不安そうに聞いてくるが、その心配はいらない。
「五感強化は高速で魔力を循環させる必要がある。怪我をするほど魔力を操作出来るのなら危険だが、身体強化をしようとして変な失敗が起きることはまず無いぞ」
魔力を操作し始める三人。
熱心なのはいいことだが……。
「依頼の話はどこ行った? まだこっちは報酬の内容も聞いて無いんだが」
そう伝えると鏡花は慌てて屑魔石を机の上に置く。
「また如月に怒られるとこだった! 依頼の報酬はギルドの調理部屋の使用権。一回講習を受けると一ヶ月は自由に使える。ちなみにこの部屋は、お金でレンタル出来ないから、使いたければ何かしらギルドの依頼で許可を取るしかないね」
料理しないから別にいらんが。
あまり気が乗らず断ろうとしていたところ、紬が待ったをかける。
「丁度いい! レオさん! これ受けた方がいいよ」
「飯はギルドの食堂で満足してるし、俺は料理しないぞ? そんな部屋借りたところで……」
「私が使うの! ギルドの調理室は調理用の特殊な魔道具が置かれてあるから、レオさんの回収したお肉も美味しく調理出来るよ」
「依頼を受ける。精一杯頑張るから任せてくれ」
「了解。如月にそう伝えとくわ。明日迎えに行くから準備しといて」
報酬で得られる使用権は、パーティーメンバーである紬も適用されるらしく、二つ返事で了承した。
モンスターを調理するにあたって、理紗の魔法では慣れないうちは失敗する可能性もあると言っていたため、渡りに船の依頼報酬だった。
三人と別れ、ベッドで横になる。
講師に行く場所は、理紗と紬も同席しているらしく、何かあれば頼ってくれと言われたが……。
いつまでも二人におんぶに抱っこではいられない。
手始めに明日の依頼を華麗にこなし……。
「理紗の学友を立派な戦士にしてやろう」
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