122話 ダンジョンの修復
「あれは……イレギュラーモンスター?」
紬の問いかけが虚空に消える。
動揺する俺と同じように、エアリアルを知る理紗も目を見開いていた。
「……何でダンジョンにドワーフが出てくるのよ。レオ、知り合いなの?」
「俺がいつも着ている皮鎧の製作者だ。あいつとはエアリアルで死に別れたから、何でここにいるのか分からん……」
かろうじて生きていた、なんてことはない。
なんせあいつの遺体は、顔以外の原型が分からぬほど損壊していたから……。
拳を強く握り、過去の思い出を想起している俺に向かって、理紗が声をかける。
「イレギュラーなら討伐する必要があるんだけど、あなたに倒せる?」
勝てないことを不安視しているわけではない。
ここにきても理紗の信頼は崩れることなく保たれていた。
だが、優しい声色で問いかける理紗に答えることができなかった。
俯く俺に向かって紬が提案する。
「無理そうなら……他の人にも変わってもらうのがいいんだけど、あれ、誰か倒せると思う?」
紬の不安気な言葉に理紗がごくりと唾を飲む。
俺が魔力を展開した後、ドヴェルらしきドワーフは魔力を元に戻した。
だから今は、さっきの圧力を感じることはなくなっているが、二人も感じた圧倒的な魔力は脳裏に深く刻み込まれている。
……先程見た防衛隊では勝てないだろうな。
俺が本気で立ち会っても倒せるかどうかだろう。
それも聖剣の力を十全に発揮して、相打ち覚悟で勝負を挑まなくてはいけない。
心の底ではそれもいいと思ってはいるが……。
「死んだら絶対許さないから……」
何かを悟ったのか、理紗が俺のシャツをギュッと掴む。
「……分かってる。借りは返す主義なんだ」
その言葉を聞いても理紗の手が離れることはなかった。
世話になった二人に恩返しをせぬまま、自分の目的を遂げようとは考えていない。
そんなことをすれば、あの世で団長にぶん殴られるだろう。
反対側も紬に捕まれ、俺が勝手な行動をしないようにと警戒されている。
しばしの沈黙、こちらを向いていたドヴェルに動きがあった。
いつの間にか手に持っていた大振りのハンマー。
背後に振り返ったドヴェルは、ダンジョンの地面に叩きつける。
すると聖剣が破壊した傷跡が、みるみるうちに修復していき……以前とは違い、無骨な装飾がされてある石壁に様変わりしていった。
息を飲む三人。
ダンジョンの変化が終わると、ドヴェルらしきドワーフは一度こちらに振り返り、何も喋ることなく消えていった。
「これは一件落着……でいいのかな?」
「何て説明するのよこれ……」
苦笑いで紬が声を上げる。
理紗は頭を抱えていた。
だがこれで……。
「弁償しなくても良くなったってことだろ? これで捕まる心配もなくなったな」
「そうね。鏡花さんには経緯を説明する必要がありそうだけど、ギルドの方で何とかしてくれるでしょ」
「師匠も頑張ってたみたいだから、帰ったらレオさん褒めてあげてね」
ダンジョンに背を向けて歩き出す。
二人は落ち着きを取り戻したはずなのに、俺の両脇に立って手を握り続けている。
「理沙、もうあれは消えたんだ。だから手を離……」
「レオ、何であの店の周りにモンスターが並んでるの?」
「あれは、だな……戦闘の跡だ。イレギュラーが呼び出したモンスターの数が多くて処理しきれなかったんだ。あの店に穴が空いているのは俺の仕業じゃないぞ。本当だぞ。力加減を間違えて壊したわけじゃないからな」
理紗が指差す先には俺が配置したモンスターの死骸があった。
少し早口になりかけながら説明するも、理紗は小さい声でそう、と呟くだけ。
本当に分かってくれているのか?
変な突っ込みが入らないように、今度は左に顔を向け……。
「紬、俺はもう暴れたりしないから手を離……」
「そういえばレオさん、今回の戦いで肉を回収できたの? 量がどれだけあるか分からないけど、調理出来るやつがあれば好きな料理作ってあげるよ。何が食べたい?」
「焼き鳥丼が食べたい。鳥のモンスターを手に入れたんだ。後はお好み焼きと焼きそばも捨て難いな。祭りで食べたんだが、マヨネーズが付いてて美味しかった。焼き鳥丼にも……」
「マヨネーズつけてほしい、でしょ? 分かってるよ。りっちゃんにも焼けるようなモンスターだったら、すぐに調理してあげる。他にも食べたいものはある?」
紬の言葉に、ギルドの食堂で食べて美味しかったものを伝えていく。
三人の会話は、ギルドに到着するまで止まることはなかった。
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