120話 謎の力
自由落下に身を任せ地上に降り立つ。
地面に着く瞬間、聖剣の力を一部解放、勢いを殺してどこも破壊することなく着地した。
そう……どこも破壊することなく。
ちらりと道路側に目を向ける。
当然だ、変わるはずがない……。
依然として道路は破壊され、店には穴が空いたまま……。
───────
「これでよし!」
一仕事終えてかいてもいない汗を拭う。
モンスターの放出が止まり、安全になったことを確認すると、俺は証拠隠……戦闘の過酷さを分かってもらうために、モンスターの死骸を道路側に並べていった。
力加減を間違えて破壊してしまった店舗の付近には、金属製のゴーレムが横たわっている。
破壊された道路や建物の近くに置かれているモンスターの数が、不自然に多い気もするが気のせいだろう。
依頼の報酬はモンスターの肉であり、食べることのできないこいつらは報酬の範囲外だ。
依頼前に報酬額を釣り上げるならまだしも、依頼を受けた後でちょろまかすのは元傭兵の矜持に反する。
残るはイレギュラーが生み出した周囲に残留する瘴気だけだが、これを浄化するのにどれくらいかかるのだろうか?
紬が百人いると仮定して……二月くらいか。
「そんなに待てんな。俺はここしか潜れないんだぞ」
理紗たちとの兼ね合いもあるし、気軽に県外に行ける立場ではない。
二月もかかれば貸し部屋の無料期間も過ぎてしまう。
それまでに資金を貯める必要がある俺にとっては死活問題だ。
……仕方ない。
人の気配がないことを確認すると、聖剣を取り出す。
聖剣は俺の意を汲んで風の渦を発生させる。
瘴気は風に集められていき……どろりとした黒い液体に変化した。
宙に浮かぶ液体は風に運ばれ俺の真上に移動する。
俺は口を開けて真上に向くと……落ちてくる液体を飲み干した。
「今日は胃もたれしそうだな」
お腹を撫でながら呟く。
あのまま放置してしまうと、また周囲を覆い隠すような瘴気に戻ってしまうため、苦肉の策だった。
体に溜まった毒素を吸収し終わるまで、この気持ち悪さを我慢しないといけないとなると嫌になる。
……今日はあっさりとしたものを食べよう。
そう心に決めてダンジョンの入り口に発生した、光の壁の前に立つ。
イレギュラーは何故か弾かれていたが、弱そうなゴブリンはこの壁を通り抜けることができた。
試しに俺も手を伸ばして確認するが、怖気が走るほどの魔力は抵抗を感じることなく通り抜け……。
『いいなあ……いいなあ。私もこれが良かった。ねえ、私にこれ頂戴』
突如、頭に響く幼子の声。
全身の産毛が逆立ち、退避行動を取ろうとするが間に合わず、腕の中に魔力が流れこんでくる。
「なんっ……だこれは!」
練り上げた魔力で抵抗するが、純粋な魔力量で完全に負けている。
右手の指先の自由が奪われ、徐々に感覚が麻痺していく。
そんな中、左手に握られていた聖剣が俺の意思を無視して突然動き出し、ダンジョンに向けて風の刃を放った。
風の刃は光の壁を粉砕し、ダンジョンの中を抉り取り、階層移動の扉を消し飛ばした。
体に染み込んでいた魔力が消え、すうっと体が楽になるが、そんなの今はどうでもいい。
ダンジョンの中は、聖剣の攻撃の影響によるものなのか、空間に亀裂が入っている。
以前デスパレードを間違って攻撃してしまった時も、このような現象が発生したが、あまりいい影響ではなさそうだ。
仮にこれでダンジョンが使用禁止になってしまうと、負債はいくらになるのだろうか?
それが全て俺に降りかかる?
────────
あれからいくら時間が経ったのか分からない。
呆然と立ち尽くす中、こちらに走ってくる物音が聞こえた。
「レオ! 大丈夫? 怪我はない? って嘘……」
「レオさん! 回復魔法いる……レオさん?」
「いや……これは俺がやったんじゃなくて……俺が原因ではあるんだが……」
背後を振り返ると翼を出して飛んでいる紬と、走ってきたのか息が乱れている理紗の姿があった。
理紗は俺と同じように呆然とした表情で、ダンジョンの中を確認するとゆっくりとこちらに歩いてくる。
俯きながら歩いてきた理紗は、俺の手を優しく握り……。
「大丈夫、大丈夫よレオ……」
「──もしかしてこれを修復出来るのか?」
理紗は顔を上げ俺の目を見つめ……。
「何年でも待ってあげるから、大人しく自首しましょう」
言い聞かせるようにそう告げるのであった。
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