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119話 スタンピードの終わり

 

 イレギュラーモンスターの変貌に驚きつつも、変化前にダンジョン前に落とした宝石が散りばめられた王冠を盗みと……壊れないように回収する。


 イレギュラーには先程までの自意識はなく、ただただ、くぐもった呻き声を漏らすだけだった。

 どんな仕組みなのか分からないが、イレギュラーの腕に取り付けられていた赤黒い腕輪は、体躯の増加に伴い、大きさを変えて壊れることなく太く頑丈そうな前足に装着されていた。


 ……こいつはこの大きさのままドロップするのだろうか?

 そうだとしたら俺は一躍大金持ち。

 壊さないように討伐しないと──


「……そんな攻撃当たるわけないだろ」


『ぐうっ……ガァっ!』


 イレギュラーが前足を大振りで振り下ろす。

 轟音。

 俺が背後に飛び退いたことにより、イレギュラーの前足は標的を失い、地面に大きな亀裂を残した。


 こいつの身に起こったことは皆目見当がつかないが、終わりが近いのはすぐにわかった。

 イレギュラーから漂う腐敗臭。

 イレギュラーの体表からは新しい肉が盛り上がるようにして増えていくが、それと同時に肉の一部がぐずぐずと崩れ落ちていってしまっている。


 再生と崩壊。

 生まれるよりも崩れる量の方が多く、このままでは何もせずとも死んでしまうに違いない。


『本当の戦いを見せてやる。報酬はいらん。死後、己の未熟を噛み締めて反省しろ』


 戦いが変わる前にイレギュラーに伝えたこの言葉。


 果たしてこいつの意識は元に戻るのだろうか?

 もうこいつは俺の認識すらできておらず、倒れた電柱目掛けて攻撃を繰り返している。

 不意をついて殺すのは至極簡単。

 だが戦士とはなんぞやを見せてやる、と意気込んでいた手前、それで済ましていいものかと悩んでいた時、ドラゴンの体表に変化があった。


 生成される肉の表皮に徐々に突起物が生まれ、落ちていく。

 やがて突起物は全身に広がっていき……。


「あれは……顔か?」


 突起物の正体は、苦悶の表情を見せる老人の顔であった。

 全て同じ顔で、絶望に満ちた表情をしている。

 その顔も徐々に腐り落ちていってしまうが、落下中の顔が呟いているのを俺は確かに聞いた。


『……もういい。終わらせてくれ……。こんなはずじゃ……』


 落下中の顔が、生成されたばかりの顔がこちらに視線だけ送る。

 もう喋ることはない……がその口は何かの言葉をなぞるようにパクパクと開閉を繰り返している。

 意味は理解できないが、まるで俺に救いを求めるかのように見えて……。


 乱雑に頭を掻く。

 こいつは敵だ。

 それは変わることのない事実だが、流石に意識も失い、暴れるだけの存在に成り下がってしまったのは少し同情を覚えてしまった。


「……せめてもの情けだ。壊れ落ちる前に終わらせてやる」


 そう言うと練り上げた魔力を全て強化に回す。

 イレギュラーの成れの果ては緩慢な動作で腕を伸ばし、俺を押し潰そうとするが──高まった身体能力で蹴り上げる。


 攻撃を受けたイレギュラーの右手は風船が割れるように破裂し……その身を上空まで運んでいく。

 イレギュラーの体がビルの高さまで到達していくのを見ながら俺は大きく息を吸うと……。


「グラアアアアアアアアっ!」


 俺の口から発生した指向性を持たせた叫び声は、魔力を乗せてイレギュラーのいる上空まで送られ、イレギュラーの体を更なる上空へと吹き飛ばした。

 なんちゃって《竜の咆哮》だがその仕組みは本物と同一で、腕を振り暴れていたイレギュラーを硬直させる。

 そして俺は踏みしめた足に魔力を流すと、イレギュラーの元まで跳んだ。


「悪いな。あそこで戦えば壊さなくていいものまで壊してしまうんだ」


 ギルドの適性試験で見せた全力は、身体強化までは使っていなかった。

 聖剣の力を使っていないこともあり、もう一段階出力を上げれはするが、自己の力と言う面では正真正銘これが全力。


 イレギュラーに向かって拳を振り抜く。

 次の瞬間、イレギュラーの体は消し飛び……雲が晴れた。


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― 新着の感想 ―
勇者式交殺法口伝絶命技ですね
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