117話 勇者パイセンによる善意によるご教授
『貴様! 今、何をした⁉︎』
俺の責任のなすりつけを意に介さず、イレギュラーは及び腰になりながら聞いてくる。
あわよくば街の被害もこいつのせいにならないか、と俺は言葉巧みに誘導する。
「いい攻撃だった。お前の魔法は威力があるな。でも余計な破壊があるようだ。次はもっとコンパクトに攻撃すれば──」
『貴様が壊したんじゃろうが! 何の力を使った? もしや加護持ちか?」
……ダメだったようだ。
まあ、どちらにせよイレギュラーの言葉を鏡花に伝える術などないから、ここでイレギュラーの言葉を引き出してもあまり意味がない。
イレギュラーが余裕のない様子で聞いてくるが、それは俺も同じこと……。
「わざとじゃない。わざと道を壊したわけじゃないんだ。あれは不可抗力というやつで、必要な犠牲だった」
『誰もそんなことを聞いておらぬわ馬鹿者! 何故その程度の魔力でわしの作り出した人形を破壊出来たのか聞いておる!』
イレギュラーはそう言いながら、背後にあるダンジョンにちらりと視線を向ける。
まさかこいつ……。
「この期に及んで逃げるのか? 逃すわけないだろ」
理紗たちに手をかけるなどと言い放ったこいつに、情けをかけてやるつもりはない。
だが続くイレギュラーの言葉に動揺が生まれる。
『補給用の魔物をいくつか残しておるが……貴様相手には無駄じゃろうな。ならばここで一旦幕引き──』
「いや……た、試しにやってみてもいいんじゃないか?」
『は?』
イレギュラーがこちらに怪しむような視線を向ける。
……いかん、いかん。冷静さを取り戻さないと。
イレギュラーにバレないように説明をする。
「古今東西、強力な個に数をぶつけることはそんなに悪い手ではない。一人ではやれることに限りがあるからな。だが、ゴーレムみたいな動きが遅いものは、一発殴れば終わりだから呼び出してもあまり意味がない。やはり援軍として連れてくるのは相手を撹乱することができる機動力が必要だ。だとすれば、機動力を活かすために丸々と太った豚……動物型がいい選択になるだろう。肉付きのいい……小さい体躯では意味がないから、出来るだけ大きく、強い方がいい。理解したか?」
あくまで俺は冷静に、選択肢の一つとして提案する。
だからイレギュラーには気取られてはいけない。
俺がモンスターの肉を待ち望んでいることを……。
俺の懇切丁寧な説明を聞いたイレギュラーはじっとこちらを見つめると……。
『舐め腐りおって。だが今は、お主の口車に乗せられてやろう』
イレギュラーのその言葉に俺は警戒を高めた。
表情を変えないように伝えたはずの俺の自然な説明を聞いて、そんな返答をするなんて……もしかしたらこいつは心の中を読めるのかもしれない。
イレギュラーは、先端に頭蓋骨が取り付けてある杖に魔力を込めると、勢いよくダンジョンの中から複数のモンスターが飛び出してきた。
先頭を走るのは腐臭を漂わせた体を持つ馬に乗る骸骨騎士。
イレギュラーに目もくれず、こちらに駆け寄ってきて、俺の身の丈ほどの槍を振りかぶる──全力で殴り飛ばして粉砕した。
アッパー気味に繰り出した拳の衝撃は、モンスターの肉片と共に空に消えていく。
『化け物が!』
憎しみに満ちた声色で叫ぶイレギュラー。
続いて接敵したモンスターは氷の力を撒き散らす狼だった。
狼は地面を凍らせながらこちらに向かってくる。
……特に腐臭は漂ってこないな。
狼の飛びつきを回避して、側面に回り込むと……腕を伸ばして首をへし折る。
モンスターは生命力が強いため、このままではしばらく息があるはず。
亜空間にしまうために俺は細心の注意を払いながら、狼の胸に掌底を繰り出した。
狼の体はさっきとは違い五体満足で残っている。
だらりと弛緩した体を優しく持ち上げると、亜空間に仕舞い込んだ。
かいてもいない汗を拭うと一言。
「中々いい戦いだった」
『嘘をつくでない!』
イレギュラーが苛立ちに満ちた声を上げる中、俺は追加されていくモンスターに対処していくのであった。
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